第13章 遠い約束-氷獣鬼-
どういうからくりかは知らないが、鬼をおびき出して倒す。
それが今回の依頼だった。
○○を含め、複数の陰陽師達が依頼を受けて集っている。
既に各々が任を全うすべく動き出す中、不思議な音楽が邸内を満たしていった。
「何?この音楽」
訊けば、この音色こそが、鬼を招き寄せ、かつ、意識を朦朧とさせ、その間に鬼を討ち取るのが○○達の任務…らしいのだが。
「本当に、鬼にだけ効果があるの?」
人間である○○には、何も感じない。
ただの音楽だ。
「何でも、鬼想曲っていうらしいよ」
そう説明してくれたのはちゅん太だが、ほとんどの任務の場合、ちゅん太は素早く○○の傍を離れ、安全な場所に避難している。
例に漏れず、今回も既にちゅん太の姿はない。
「相変わらず、素早い」
つい苦笑する○○だったが、不意に感じた気配に咄嗟に身構えた。
懐に忍ばせた式神の札に手を伸ばし、具現化する機を狙う。
近づく気配……。
今だ、と思った刹那、その声は、○○を震わせた。
「久しいな」
「………っ!?」
聞いたことがある…気がする。
○○が札を用いる隙もあらば、声の主は目前に現れた。
「大きくなったものだ」
「…………」
○○は瞠目した。
角を生やした姿…それは確かに、鬼ではある。
だが、その四肢は鬼と言うより、獣のそれだった。
二足歩行をし、衣を纏ってはいても、衣から覗く四肢は白銀の長い体毛に覆われている。
何より、その面は犬とも、狼とも思わせる風貌だ。
思わずまじまじと見つめてしまう○○は、目の前の存在は確かに鬼であるはずなのに、構えることを忘れ…強大な鬼へ抱くはずの恐怖すら、覚えることはなかった。
○○にも、それが何故なのか分からない。
分からないまま、ただ立ちつくす少女に、鬼…いや、その獣が距離を詰める。
「約束を果たしにきた」
「や…く、そく……」
呟かれた…その声にも、やはり○○は覚えがあった。
(この…声……)
それが幼い日に聞いたものだと悟る以前に、○○は『約束』という言葉に戦慄した。
(そうだ…私は……)
確かに何かを約束した。
それは夢に見た、そのままに……。
(けど……)
尚も思い出せない○○は知らずに震え、俯いた。