第13章 遠い約束-氷獣鬼-
なのに、夢に見るなんて。
「本当に、懐かしい」
ふと、そう呟いた時だった。
『あったかーい!』
「え………?」
『そうか……』
『うん!ふわふわー!』
不意に脳裏をよぎった声の一つは、幼い自分のものだ。
では、もう一つは……?
「私……」
ふわふわ、と何かに触れて喜んでいた。
子供の頃…あの、逃げ出した日に、何処かで…誰か…何か触って……?
手を見つめても、分からない。
あの日の感触なんて、覚えているわけがない。
でも確かに『誰か』がそこにいた。
「あれは……」
思案に沈みそうになる○○の耳に、明るいちゅん太の声が飛び込んでくる。
「○○、そろそろ行かなきゃ遅れちゃうよー」
「あ、はーい。今行くー!」
現実に引き戻されるように、○○はとある依頼を請け負うべく、部屋を出た。
昔を思い出したところで、何があるわけでもない。
まして…幼い頃の記憶をたどるなんて……。
振り払うように首を振って、○○は依頼先の、とある邸宅に向かう。
果たして…○○は依頼の中で、図らずも過去と遭遇することとなるのである。