第13章 遠い約束-氷獣鬼-
(さむい…さむいよ……)
(もう…ねむ、い……)
そこはひどく寒い場所だった。
何処までも続く白銀の世界は、強い吹雪に晒されて立っていることもできない。
歩き疲れて…もう立ってられなくて……。
『生きたいか?』
(……………?)
『まだ、死にたくはないか』
(わかんない……)
『分からぬ?』
(だって…ひとりぽっちなの……。さみしい…くるしいよう……)
『……………』
(ほんと?)
『約束だ。うぬも、忘れるな』
(やく…そ、く……)
「ん……?」
○○が目を覚ますと、目の前には見慣れた部屋の天井が見える。
辛かった修行を終え、晴れて陰陽師となって少女は、まだ駆け出しの域を出ないながらも、陰陽師としての日々に慣れつつあった。
「けど昨日の依頼は、ちょっときつかったなぁ」
依頼された怨霊退治は真夜中まで続き、床に就いたのは明け方近くだ。
「そのせい、かな」
とても懐かしい…とうに忘れていたような夢を見たのは……。
「もう…ずっと前のことなのに……」
そしてその夢さえ、久しく見なくなっていた。
修業が辛くて、仲間にも、なかなか上手く馴染めなくて。
苦しくて淋しくて逃げ出した…幼かったあの雪の日……。
気づいた時には何処かの森か…山の中か、とにかく一面の雪原に迷い込んで、そのまま動けなくなった。
それからまた、気がついたら、帝都に戻っていた。
(ううん、違う)
誰かが助けてくれた。
夢で見た…あれは……。
『約束だ』
「約束……?」
もう、全部は思い出せない。
断片的な記憶の欠片を集めるように、○○は呟いた。
自分は確かに、『誰か』と『約束』をした。
それだけは覚えているが。
「何を……?」
一体、どんな約束をしたのか。
考えてみたところで……。
「駄目だ、全然思い出せない」
修業が辛くて逃げ出した、一度きりの逃避行は、今でも覚えている。
でも、その中身は…何処をどうやって逃げたとか、何処をさまよったとか、そこまで鮮明に記憶するには、自分は幼かったのかもしれない。
どちらにしても、もう…昔の話だ。