第12章 唯-小鳥遊正嗣-
情事の気だるさに幸福そうに目を細めて、正嗣は○○の頬に唇を寄せる。
「叶うことなら、このままずっと、貴女と過ごしたいものだね……」
もっとも、互いにそうはいかない身であることは承知で、正嗣は夢見るように○○の髪を撫で、こめかみに口づけて。
少しでも触れていたい、離れがたい想いのままに、眠る少女にそっと触れた。
今はまだ…すぐには無理だとしても、正嗣の胸には既に定めた、確固たる決意が根付いている。
いずれ…必ず……。
「ね、…………?」
小さく小さく、しかし揺るがぬそれを悪戯っぽく囁いて、正嗣は自らも微睡むように、○○を抱き寄せた。
「次からは、姓ではなく、下の名前で呼んでもらおうかな」
『小鳥遊さん』ではなく……。
『正嗣』でも、『正嗣さん』でも良いから……。
けれど、そんな風に強請ったなら。
「きっと貴女は、盛大に恥ずかしがるのだろうね」
それもまた、楽しくて…嬉しくて。
きっとまた愛しすぎて、たくさん啼かせて(泣かせて?)しまうかもしれないけれど。
「どうか、許しておくれ…可愛い人……」
陰陽師としての彼女の立場を思う一方で、正嗣の脳裏には既に、愛しい恋人を娶る企図が巡り始めていた。
「貴女しかいらない。だから私の妻になっておくれ、と言ったら、貴女はどんな顔をするのかな……」
できるなら、輝く笑顔で頷いて欲しいけれど……。
「急いては、いけないね」
今はまだ、自身の願いを戒めるように、それでいて正嗣は、○○の薬指をそっと手に取ると、密かに唇を滑らせた。
「貴女の、ここに…いつか……」
西洋では婚姻の際、互いの指に指輪を嵌めて誓いの証とするという。
いつか…彼女の指に、自分の贈る指輪が輝く日が、来るように……。
-終-