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陰陽の道≒式神との道

第3章 更衣-池袋駅運転手-


それは、まだ春浅い頃に見かけ…ひょんなことから言葉を交わすようになった、一人の少女……。

彼に近づきたい一心で話しかけてくる女性は、実は他にもいる(しかもそれなりの数で)。
しかし彼にとってのそれは、全て業務の一環であって、何ら私的感情が伴うことはなかった。

たった一人…陰陽師を生業としているという少女を除いて……。

そんな彼の微かな変化を目敏く察した某同僚などは、

「真面目なお前にも、やっと春が来たか?」

ん~?なんてふざけながら肩を組んできたが。
そんな軽い調子など、とうに慣れているものか、彼はあっさりと同僚の腕をすり抜けた。

「何を言ってるんですか。仕事中ですよ」

ばっさりと切り捨てる彼はいつも通りで、からかいに動じる様子もない。

(あれ?)

これは空振りだったか、と、つまらなく思ったのは、他の同僚達も同様だったが……。

事件(?)は思わぬ場所で起きた。

夏も本番、日々の暑さに加えて、相変わらず、何故か女性ばかりがフラついたり、時には倒れてしまったりするという事態はなくならない。

そもそも、女性と男性とでは体力も異なる。
なのに、当たり前だが誰にも等しい、この暑さ。
確かに、女性には辛いことなのだろう。

真面目な彼はそう考え、女性客が少しでも車内で快適に過ごせる方法はないものかと思案していた…そんなある日の駅のホームで、それは起こった。

といっても、ただそこに、○○がやって来たという、それだけだったりするのだが。

「うわぁ、今日も暑いなぁ……」

不特定多数が利用する場所柄、○○は式神を連れず、一人でホームに降り立った。

多くの乗降客が行き交う中にあって、彼はその中に○○の姿を見出す。

それはやや遠く、しかも後ろ姿だったが、間違いない。
そう確信を持った彼の表情は、無意識の中で綻んでいた。

知り合って、言葉を交わすようになって以来、一緒にいると楽しくて心地好い…○○。

だからといって、これほどの人波の中で、どうして彼女を見つけられるのか。
そしてそれが、どうしてこんな風に嬉しく感じられるのか。

それは分からない…自覚できないままに、彼はしっかりと業務をこなしながら、○○の傍に近づくべく、人波を掻き分ける。
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