第12章 唯-小鳥遊正嗣-
思いがけず告げられた言葉に、○○は涙の溜まった瞳を開きながら、わななく唇で音を紡いだ。
「私…っ、私も…す、き…で、した…っ」
「………○○」
「で、でも…身分も、何もかも、違うし。本当は、私程度の陰陽師が近づけるような人じゃないって、分かって……っ」
それで…と、彼との近すぎる距離が恥ずかしくて恥ずかしくて、それを誤魔化すように次から次へと言葉を探す○○を見ていた正嗣だったが、やがて、遮るように額に口づけた。
「~~~っ!」
思った通り、途端に口を噤む少女に微笑んで、正嗣は柔らかく目を細めた。
「それは…妹としてではないと、思って良いのかな」
「……は、い」
「でも、過去形だったね?」
「え?」
「今は嫌いなのかな。やはり、あのような行為に及んだ男など……」
「え…、えっ、ち、ちがいま…っ」
「ふふ、ごめん」
可愛い反応ばかりする少女を、つい苛めてみたくなってしまった、なんてあっさり白状されてしまっては、○○も怒るに怒れない。
「……意地悪です」
そう嘯くのが、やっとだ……。
真っ赤な頬を、もはや隠しようもなくなった少女を優しく褥に縫いとめた正嗣は、二度と触れられまいと思っていた肌に、ゆっくりと折り重なっていく。
「ずっと傍にいておくれ、○○」
「たか、な…し、さ…ぁっ」
衣を乱す手に悶える少女を更に愛しく想いながら、正嗣は○○の肌を暴いていった。
遠い過去…身分卑しい母から生まれたがゆえと、鴻家に生まれながら、分家筋の小鳥遊家の養子とされた。
その頃からかは、正嗣自身にも分からない。
だが己は、いつか誰かを娶る日が来ても、その誰かに決して母のような思いはさせるまいと誓った。
愛しぬける女性がたった一人、傍にあれば、それだけで……。
だから持ち込まれる政略結婚も、のらりくらりとかわし、何ら後ろ暗いことのない女性客との関わりも、わざと軽薄を装い、遊んでいる風をして見せた。
そうして…下らぬ縁談を遠ざけてきた。
そうして…見つけた……。