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陰陽の道≒式神との道

第12章 唯-小鳥遊正嗣-


彼の生業の『客』として…では、あくまでもなく。
強いて言うなら、『兄』を慕うように……。
そう、自分の中で思う…のに。

「黙り込んで…どうかしたかい?」

耳元で囁かれて、○○は飛び上がった。

「も、も~~っ!やめてください、もう!そ、そういうことは、他の女性にですね……」
「貴女がここにいるのに、他の女性の話かい?」
「だ、だって、急に、ああいうこと…するから。ああいうのは、私にじゃ、なくて……」
「○○?」
「だ、だからっ!他の人にしてください!」

言い放って、○○は正嗣の邸を飛び出した。
彼が仕事の場以外で、魔声を用いないことは知っている。
客層のほとんどを占めるという女性達との関係はよく知らないが(はぐらかされてしまうので)。

「もうっ…もうっ、女ったらし!」

という言葉が、事実かは知らなくても、つい口を突いてしまう。
そして自分で言った言葉に、○○の胸が、つきん、と痛んだ。

「………っ」

だけど、知らない。
痛みの理由なんて、これ以上、考えない。
考えたって、意味がない。

甘い…甘い彼の声。
魔声などなくともやっていけるのでは、と冗談めかして言ったこともある彼の声が、駆け出した○○の耳奥に今も残っている。

そうして彼を思い返す、その刹那、○○の中で甦るものがあった。

(っ!また……っ!)

『それ』が前触れなく○○の脳裏に浮かぶのは、実は初めてではない。

眠りの内の夢として表れたり、どうということもない瞬間に脳裏を掠めたりもするが、彼と話している最中、あるいは、その直後に『それ』は最も多く現れた。

理由なんて分からない。
分からないが、突然にやってくる『それ』……。

脳裏を掠める光景の中では、自分と彼とが、あられもない姿で絡み合っていて……。

「~~~~~っ」

ありえない光景に、○○は当初、愕然とした(それは今も変わらないが)。

どうして自分は、こんな夢を見るのか……。
夢だけではない、こうして普通に過ごしている瞬間にさえ、まるで滑り込むように『それ』は不意にやってきた。
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