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陰陽の道≒式神との道

第3章 更衣-池袋駅運転手-


季節が変われば、纏う衣服も変わる。
大正というこの時代、洋装の人々を多く目にするようになった昨今、地下鉄動員達の制服も、暑気の中で夏服へとその出で立ちを変じたのは、つい最近のことだ。

夏服となれば、当然服の袖は短くなり、肌の露出も増える。

「きゃっ!」
「きゃあぁ」

女性の悲鳴もどきが聞こえたと思えば、そこでは頬を染めた複数の少女…のみならず、ご婦人方が、ある鉄道員の一人に注目し、しかし、はしたないと察したのか、すぐに慌てて目を反らす。
とはいえ、時には、

「ああっ!」

ぱたり、と貧血よろしく、倒れてしまう女性までがいたりして、目下、婦女子達の視線を集めていた当人は思案顔を俯けた。

ちなみに、その憂い顔がまた素敵…なんて一部婦女子が頬を染めていることを、彼は知らない。


前置きが長くなったが、この“彼”は、地下鉄池袋駅運転手である。

軟派な車掌を補佐しつつ…というより、車掌代理をしていたりもする、日々きっちりと仕事をこなす、真面目な好青年だ。

見目も涼しげ、勤勉実直を地で行く彼は制服もかっちりと着こなし、車掌のようにボタンを外して襟を緩める…なんてありえない。

のだが、如何なきっちりした彼をしても、夏服となれば、シャツの袖が短いのも、そこから二の腕が出てしまうのもどうしようもない、というより、当然である。

が、冬服時の決して崩れることのない着こなしの彼に比すれば、夏服のそれは、女性陣の目にはどうにも眩しいものらしい。

お陰で、ある女性は顔を真っ赤にし、ある女性はフラつき、かと思えばその場に倒れしまうという女性までが出る始末。

とはいえ、肝心の彼はその理由を知らず…というより、いつまでたってもまるで無自覚で。
他の駅員達は、毎年この季節になるたびに、そんな彼の様子に苦笑を禁じ得ない。

いつまで経っても自覚皆無な彼に、そろそろ誰か教育(?)してやれよ、なんて言い合う面々の中、しかし、今年の夏は、そんな彼の雲行きも、どうやら異なるらしかった。
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