第12章 唯-小鳥遊正嗣-
○○の心には、一つの決意が宿っていた。
「二度と、同じ轍は踏まない」
図らずも強敵と遭遇することは、今後もあり得るだろう。
しかし、あの時のようなことにだけはなるまい。
あれほどの犠牲を、二度と式神達にも払わせはしない。
それには、陰陽師としての己がもっともっと精進しなければ。
心に呟き、ぎゅ、と手に力を込めれば、両手で包むようにしていた湯呑みの中で、液体がちゃぷん、と波を立てた。
「わっ!?」
その日、○○は正嗣の元を訪れていた。
にも拘らず、過去を追想してしまっていた。
(いけない、いけない……)
あの…大切な仲間を失くした夜を、忘れはしない。
それは確かだが、訪問した先で一人考えに耽ってしまうのは失礼というものだ。
しかも、もうちょっとで茶を零してしまうという失態を演じそうだった○○は、そのまま、くーっ、と、何事もなかったように飲み干してみた…が。
「ふふっ、可愛らしいね。でも…私の目は誤魔化せないよ?」
「ぐっ……」
見られたくないところを見られてしまった、とばかりに、○○は器を卓に戻すと、熱を感じる面を伏せた。
(やっぱり見られちゃってたんだ)
彼の目を誤魔化せるなんて、そもそも思っていないが、やっぱり見られてしまったことに、○○は恥ずかしくて俯くしかない。
しかしそんな少女を上手にいなすようにして、いつの間にか他愛のない、けれど楽しい時間へとすり替えてしまうのは、彼ならではだろう、と○○はいつも思っている。
これなら女性客が多いというのも頷ける。
言い方を変えるなら、何と言うのか、
(これって…あれかな)
掌で転がされる…とかいう、正にそれだろうか。
なんて、○○的には思ってしまう。
何しろ、彼は○○より大人だ。
年齢でも…そして、精神の面においても。
彼には本当に敵わなくて、いつも上手くかわされてしまう。
それでつい、更に自分はムキになってしまう…という繰り返し。
でも…嫌じゃない。
それどころか、陰陽師としての仕事や、己を鍛える為の精進の時間、その他諸々の間を縫うようにして、○○は時間を見つけてはこうして彼を訪れていた。