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陰陽の道≒式神との道

第12章 唯-小鳥遊正嗣-


今の彼女にとって、式神は仲間で…家族のようなものだ。
その多くを、一度に失くすということは……。

「私…独りになっちゃう……」

ぽつ、と落ちる哀切を忘れさせるように、正嗣は激しく少女を突き上げた。

「ここに、いるだろう?」
「んぁっぁぁっ!?」
「そう…だろう?」
「ぅ…んっ、どこにも、いかな…で…っ」
「行かないよ。何処にも、行きはしないから……」

少女には使わぬと決めたはずの魔声を放ち、正嗣は壊れそうになっていた○○の心をゆっくりと誘導していく。

独りじゃない。
大丈夫……。

何度も何度も重ねるそれは、淫らな交わりの調べの中……。

「ぁ…、ぁあ、ぁ…っ」

やがて意識を手離した少女の面は、涙に濡れながらも、常の穏やかさを取り戻している。
正嗣は立ち上がり、拳を握りしめて彼方を見やった。

「これで…良い……」

彼が何かを思い定めた…そんな翌朝、○○は正嗣の邸ではなく、いつもの、自らが寝起きしている場所で、いつものように目覚めていた。

何となく気だるい感覚がある…が、他は、何ともない。
痛みも何も…そして、昨夜の記憶さえ……。

「私……?」

その謎だけを残して、しかし、○○は再び立ち上がった。

失くした式神は戻らない。
けれど、もう一度……。
彼らの思いを無駄にしないためにも。
自分はもっと強く、しっかりしなければ……。

そうして一ヶ月が過ぎ…三ヶ月程が過ぎる頃、○○は変わらずに時折正嗣を訪ねては会話に興じたが、『あの夜』のことが○○の中に甦ることはなく、正嗣もまた、自らが施した術を破る愚をおかすはずもないまま……。
時は…更に一ヶ月余りを刻もうとしていた。

魔声の効力…とはいえ永続性のないそれは…そして、暗示によって封じられてしまった艶めかしい一夜の記憶は、しかし○○の中で確実に彼女自身を支え、癒す力となり得たものか、それは○○自身にも分からなかったが、彼女の元には新たな式神が集い、そして○○自身も着実に陰陽師としての能力を向上させていった。
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