第12章 唯-小鳥遊正嗣-
そうして、この日、○○が一度に失った複数の式神達もまた、そうした者達であろう、とは、正嗣には問うまでもなく見透かせた。
いつも明るくて、何処かまだ子供っぽくて、からかうと面白くて。
『女性』でありながら、○○とは二人きりになっても、正嗣は自らの魔声を使ったことはなかったし、これからも使うつもりはなかった。
己の生業如何に関わらぬ、そんなしがらみなど無関係に向き合える存在として、正嗣は○○を認め、いつしか信頼し、心を開いていた。
だからこそ。
「○○に魔声は用いまい」
半ば無意識に自らの内に定めていたものを、正嗣はこの日、己の手で破った。
○○が現れたのは、夕暮れ時……。
その佇まい…気配一つからして常と大きく異なるとすぐに知れたが、
「じきに日が暮れるよ?良いのかい?男の元になど忍んで」
などと、正嗣は敢えて、いつものような軽口を叩いた。
だが、半ば予想はしていたが、少女は反応しなかった。
反応せず、当初は何かを語れるような状態ですらなかった。
それでも彼女の足がここに向いたのは、どうしてだろうか。
既に○○をただの友人と遇する困難を自覚しつつあった彼は、ふと考えてしまう期待のようなものを押し込め、室の内へと招き入れた。
思えば、彼女を入れねば良かったのかもしれない。
そうすれば……。
「んぁ…ぁっ…ぁんっ!」
己の腕の中で絶頂に悶える少女の項に顔を埋めて、正嗣は悦楽とは異なる吐息を落とす。
戦いの中で式神を失うことは、ままあるものだ。
完全なる無傷…とは、しかも駆け出しの陰陽師には難しかろう。
それは彼女も頭では分かっていたであろう、と正嗣は思った。
幼げに見えても、○○は愚かなどではない。
凛とし、しっかりとした考えを有している。
しかし頭では分かっていても、受けた衝撃は、恐らくは○○の想像を遙かに凌駕していたのだろう。
思った以上の損害。
式神の消失。
しかも、ようやく語った○○によれば、式神達の中には○○を生かし、逃がす為に敢えて敵前へと身を投じ、自ら散ったものもあるという。
その様が頭に焼き付いて離れず、○○の心は震え、壊れてしまいそうだったに違いない。