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陰陽の道≒式神との道

第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-


「これは…私の故郷での挨拶のようなもの…でしょうか」

そう言って説明しながらも、

「ですが、驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」

微かに笑って、彼は立ち上がる。

「とても楽しかったです。まるで夢のようでした。今夜はお付き合いいただいて、ありがとうございます」
「私こそ、すごく楽しかったです。ありがとうございます」

やがて見えてきた家の扉に、○○はここで大丈夫ですから、と告げたが。

「貴女が無事に中に入るまで、見送らせてください」
「え…で、でも、もう目の前だし。大丈夫ですよ?」

それに、そんなに心配されるのはくすぐったいとか、何だか申し訳ないとか、幾つもの気持ちが○○の中に渦巻いていく。

何しろ、男性にこんな風に扱われたことなんて、考えなくても未だかつてなかったりするので。
○○の混乱(?)は当然かもしれない。
だが、そんな○○をよそに、

「さあ、扉の向こうへお帰りなさい…黒猫さん」

そう微笑む彼が見送ってくれるから。

「……ありがとうございます」

それでは、また…とは、しかし○○は言えない。
互いに何も知らない、その彼と会うことは、もうないだろうから。

そう思うと無性に切ない気持ちになるのは、どうしてだろうか。
けれど、今それを考えたところでどうしようもない。
物思いを振り切るようにして、○○は真っ直ぐに扉へ向かった。

扉に手を伸ばし、開こうとする刹那、一度だけ後ろを振り返れば、そこにはまだ…本当に彼は自分を見送ってくれている。

闇に溶けそうなその姿に、○○の胸が…不思議な音を立てるけれど。

(お祭は、終わり……)

○○が手を振れば、彼もまた、返してくれて。
そうして扉の内へ…元の陰陽師へと、○○は戻っていく。



ゆっくりと閉じる扉の奥へと、黒猫の少女が消えていく。
やがて扉が閉じ、少女の姿が見えなくなってしまっても、エリックがその場に留まり、名残惜しげに見つめていたことを、○○は知らない。

ややして、ばさり、と闇に外套が翻る。
その姿はほどなく闇に溶け…二人の南瓜祭は、終わりを告げた……。
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