第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-
笑い含みに捨て台詞を吐きながら、エリックが○○の手を引く。
導かれるままに、○○も一緒に逃げ出した…は良いが、いつの間にか増殖し始めた追跡者に○○は目を剥いた。
しかも、頭に巨大な南瓜のようなものを被っている。
「!?今度は何?」
見たことのないそれに、○○は思わず、きゅ、とエリックのシャツを握ってしまう。
と、気づいた彼は○○を宥めるように目を細めた。
「大丈夫、怖くありませんよ。あれはジャック・オー・ランタン…かぼちゃお化けと言って、この祭には付き物なんです」
「そ、そうなんですか?」
そう言われて、ちょっと安心しかけた○○だったのに、
「あ、ですが」
「え?」
「捕まると……」
「……捕まる?」
それってどういうこと、と訊ねるその前に。
「お菓子、よ~こ~せ~」
「おーかーしー」
口々に追いかけてくる、かぼちゃ達の狙いはどうやらお菓子らしい。
「お、お菓子?」
「ええ。彼らはああしてお菓子を強請るのです。本来は違う意味のお化けなはずなのですが、まあ、お祭ですしね」
そう言って笑ったエリックは、ちなみに、と、かぼちゃ達を一瞥して。
「お菓子がなかったり、あげなかったりすると」
「す、すると?」
「悪戯されてしまうんですよ」
「いたずら?」
もっと怖いことを想像していたのに、何だかちょっと拍子抜けだ。
ほっとするやら、肩透かしな感じやら。
複雑そうな○○の手を、エリックは笑いながらつなぎ直した。
途端、ちょっと、どきっ、としてしまうのを、○○が目を泳がせて誤魔化していると、
「これはお祭ですからね」
楽しくなければ。
そう言って彼が笑うから、○○も釣られるように笑った…が、二人は未だ逃避行の真っ最中。
「そうですね、って、エリックさん、追いつかれちゃいます!」
「え?…っと、ほら、お菓子ですよ!ほら、貴女も」
「え?あ、そっか!はい、お菓子だよー!」
両手に抱えていたそれを、○○達はここぞとばかり、かぼちゃ達に振る舞う。
投げたそれを彼らが拾っている内に、二人は無事に逃げ切ることに成功した。