第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-
結局、○○一人ではとても食べきれない菓子を二人で…というより、ほとんどエリックが持ってくれたのだが、ともかくも露店の軒先をそのまま練り歩けば、ふと通り掛かった店の前で、彼が珍しそうに足を止めた。
「これは…弓矢?」
「そうみたいですね」
見ると、弓矢の向こうには、色々な品が並んでいる。
ということは、
「なるほど。これで射落とせということですね」
そうしたら、その品が手に入る。
仕組みを理解したエリックが弓を番えた。
「どれが良いですか?お嬢さん?」
「え?私?」
「どれでもお望みのものを取って差し上げます…と言いたいところですが。頑張ります」
言いながら、すぐ隣にいた彼は○○を振り返りながら、悪戯っぽく片目を閉じて笑いかける。
「~~~~~っ!」
そうでなくても、いつの間にか近づいてしまっていた距離が更に近づいて、○○は慌てて後退りながら目を泳がせた。
「え、えと…じゃ、じゃあ……」
(何か、答えなきゃ……)
どきどきする胸を抱えながら、○○は景品棚を見る。
ふと目に入った、ある品を、○○は指差した。
それは、後ろの壁に立てかけられた、小さな飾りのようだった。
可愛らしい子猫の絵が描かれたそれに、エリックは笑って頷いた。
「ふふ、正に子猫ですね?」
そう言って矢を射る…けれど、
「もう少しなのに、難しいですね」
なかなか上手くいかない。
苦戦する彼に、露天商はにやにやと笑った。
「彼女に良いとこ見せろよ?色男」
「っ、少し、黙っていただけませんか」
途端、力みながら放った最後の矢は、露天商の鼻先を掠め、○○が指差した景品を射落とした。
「当たりました!」
「すごい!すごいですっ!」
無邪気に喜ぶ二人に露天商は景品を渡してくれつつ、しかし、
「俺を殺す気か?あ?兄ちゃ~~ん?」
露天商に至るまで仮装している南瓜祭の夜。
今まで気づかなかったが、顔や腕に継ぎ接ぎを描いた店主が追いかけてきた。
「あ、あれ…何ですか!?」
ぎょっとする○○の手を、エリックが握る。
「あれは恐らくフランケン…ではなくて、今はとにかくこっちへ!」
「え?あ、はい!」
「うぉら~~、ま~~て~~~っ!」
「待てと言われて待つ人間はいませんよ」