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陰陽の道≒式神との道

第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-


とはいえ、今夜は南瓜祭だ。
もちろん本名を訊ねるつもりはない。
それは彼も心得ているようで、

「それでは、『エリック』と」
「えりっく…エリック…さん?」
「はい」

何度か反芻する○○に、彼…エリックはそうですよ、と頷いて。
再び歩き出せば、

「はい、お嬢さん。喉は乾きませんか?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。お口に合うと良いのですが」

いつの間にか彼が露店で買ってきてくれた飲み物を受け取れば、湯気の立ち上る中には不思議な琥珀色……。

「これ……?」
「紅茶といいます。飲んだことはありませんか?」
「聞いたことはあるけど、飲むのは初めてです。お茶っていうと、いつも日本茶だから」
「そうですね、日本茶も素晴らしい。ですが、こちらも美味しいと思いますよ。貴女にもそう思っていただけたら、嬉しいのですが」

そう優しく促されて、○○は、こく、と嚥下して…みた。

「あ、おいしい……」
「それは良かった。おすすめした甲斐があります」

初めての飲み物にちょとだけ恐る恐るだった○○は、日本茶とは異なる、けれど美味しい味と、これまた異なる香りとに、お酒を飲んだわけでもないのに、何だかほんわりとした気持ちになる。

そうして喉を潤した後には、小腹も満たして…どころではなく。

「はい、どうぞ。美味しそうですよ」
「あ、ありがとうございます」
「はい。こちらも」
「え……」
「こちらもどうぞ」
「え、ちょっ…ちょっと……!」

最初の団子や饅頭…くらいまでは良かったが。
次から次へ、あれもこれもと、最近流行の洋菓子やら、

「綺麗な飴細工を見つけましたよ」

ほら見てください、なんてだけには留まらない、何やら贈り物攻撃もどきなお菓子の数々に、○○もさすがに引き攣った。

「こ、こんなに無理です!」

太っちゃうし、と頬を膨らませる○○だったが、エリックは至極楽しげにくすくす笑っている。

「そんな貴女も可愛いと思いますが」
「いーやーでーすー!」
「ふふ、本当に可愛いらしいですね。黒猫さん」
「もうっ!」

そんな言い方したって誤魔化されませんからね、と顔を顰めて見せても彼には通じない。
○○にしても本気で怒っているわけではないから、お互い様かもしれないが。
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