第11章 魔法の夜に-紅茶屋のお兄さん-
「ふふ、そんなに否定することはないのに。今夜はハロウィン…あ、っと、南瓜祭なんですから。ねえ、お嬢さん?よろしければ、私に一夜のエスコートをさせていただけませんか?」
「えす、こーと……」
また、分からない言葉が出た。
きょと、とする○○に、彼は今度はすぐに気づいたようだった。
「これは、申し訳ない。そうですね…私と、一緒に祭を楽しんでいただけますか?」
「私…と?」
「ええ。それとも、もう誰かと約束を?」
「そんなことないです!今夜は一人で見て回ろうと思ってて」
「それでは、ご一緒いただけますか?」
改めて申し込まれ、言葉と同時に大きな掌が差し出される。
大きくて、長い指先……。
知らない、男の人の…手……。
だけど、今夜は南瓜祭。
だから…今夜、だけ……。
そんな、祭という名の不思議な力に背中を押されるように、○○はおずおずと、彼の手に自分の手をちょっとだけ、重ねたら。
「ありがとうございます。では参りましょう。お嬢さん」
きゅ、としっかり握られて、○○は彼に優しく手を引かれた。
顔の半分は見えないけれど、優しく微笑んでくれているのは分かる。
○○はそれだけで、不思議と安心できた。
「はい!」
手を引かれて人波を抜け…この日の為に設えられた様々な店に足を止めては、祭を楽しむ。
顔は見えないけれど、間違いなく初めて出会った男性……。
なのに、まるで気負わない自分がいる。
彼の優しい雰囲気のせいなのか、これも祭のせいなのか。
それは分からないが、突き詰めて考えるのは、今夜は無粋かもしれないから。
気づけば以前からの友人のように、二人で祭の賑わいに身を任せて笑い合った。
でも考えてみたら、彼は○○を『お嬢さん』と違和感なく呼んでいるけれど。
(私は、何て呼んだら良いのかな)
彼が『お嬢さん』と呼ぶからといって、
(じゃあ、私は『お兄さん』とか……?)
いやいや、それは呼びにくいし、ちょっと抵抗があるような……。
決めかねた○○は、本人に名前を訊ねてみることにした。