第10章 標的捕捉-諜報部隊・隊長-
後日譚-昏い思惑-
初めて○○を抱いた、あの夜はただ、本気になれそうな少女の存在に荒んだ心が安らぎに凪いだ。
でも今はもう、それだけでは済まない。
己の生業を知ってなお微笑み、受け入れ…何より、己自身がこれほど欲しいと想う存在などいない。
そう悟った瞬間、男にとって、それはただの恋ではなくなった。
愛や恋という言葉では、もはや表しきれない。
奥手な少女が知れば慄くだろうほどの妄執とも、恋着とも…愛欲とも称するもの。
だから、少女には知らせない。
ただ明るく輝くばかりではない、この深い…深淵にも似た情愛を、決して○○には悟らせずに……。
甘く…甘く、何処までも優しく絡め取り…この腕に抱いて、決して離しはしない。
誰にも触れさせない。
誰にも渡しはしない。
「誰にも……」
あの、柔らかな温もり…甘い肌……。
そうして溶け合えば、甘くも狂おしく締めつけ、受け入れて包み込む、少女の全て……。
暗殺を生業とする男の渇きを癒しうる、唯一の存在となったことを…想像もしえぬほどの深い情欲を注がれる存在となったことを、当の○○は知らず、そしてこの先も、知ることはない。
○○が怖がらぬよう、怯えぬよう、優しく…何より大切に慈しみ、愛して。
この腕から離れられぬほどに身も心も溶かし、蕩かせる。
その一方で、邪魔な存在があれば、排除すれば良い……。
しかし今は、彼女と過ごすひとときを満喫する方が先だ(というより最優先事項だ)。
そうして約束の時間に少女を訪れれば、
「いらっしゃい!あ、お茶淹れるね」
開いた扉から弾けるような笑顔が覗く。
それだけで心は満ちるが、男が一番に欲するものは決まっていた。
「今は良い。それより……」
「ぁ……っ」
するり、と艶めかしく頬を撫でて甘く目を細めれば、もはや男の望むものは明らかだ。
「駄目か?」
優しく少女の意向を問えば、ふるふる、と恥ずかしげに○○が首を振る。