第10章 標的捕捉-諜報部隊・隊長-
「陰陽師同士の情報網って、結構いろいろあってね。だから、その……」
「○○?」
言い難そうな少女を促せば、驚くことに、○○は男の雇い主まで突き止めていた。
「なるほど、それはすごい情報網だ」
「あ、でも、誰にも言わないから」
「分かってる。お前のことは信用してるさ」
それは心からの、男の本音だ。
○○なら…信じられる。
だが、それにしても……。
「考えてみれば、怖い陰陽師だな、お前。これじゃ、隠し事もできないな」
「隠し事…あるの?」
途端に胡乱な目を向けてくるのが可愛らしくて、さあな、と惚ける振りをした男の目が、ふわりと和む…というより。
とさっ……。
そのまま、改めてしっかり押し倒されたりして。
「え……?」
きょと、とする○○に、男は妖しく微笑んだ。
「俺の生業を知った上で、お前は昨夜、俺から逃げなかったんだな」
「うん…その、恥ずかしかった、けど」
「人を殺す俺の手に抱かれた」
「だ、だから、そういう言い方…はずかし……っ」
「だが、事実だ」
「け、けど、それを言ったら私だって、魔物とか怨霊とか言ったって元は人間だった人もいるし。それにあやかしだからって、封印したり、消滅させたり、何でもして良いってわけじゃない…と、思う」
「お前……」
「けど、それが私のお仕事だから」
その為の術を、子供の頃から仕込まれてきた。
だから、それ以外の道を自分は知らないし、少なくとも今の自分は異なる道を進もうとは思わない。
もちろん生命を奪うのは、いずれにしても肯定できるものではないけれど。
それでも……。
「怨霊退治と一緒にするのは、ちょっと無理があるかもしれないけ…どっ、ぅひゃっ!?」
「本当に、お前って奴は……」
己とて、本心から暗殺を良しとは思わない。
しかし、それが自らの生業だ。
それを○○が分かってくれていると、少なくとも分かろうとしてくれていると感じるには、その言葉は男にとって、十分以上の力があった。