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陰陽の道≒式神との道

第10章 標的捕捉-諜報部隊・隊長-


この生業に身を浸してからは、無防備に自分を晒すことも、誰かに気を許すこともなくなった。

女を抱いたところで、そこに特別な感情があるわけでもない。
後腐れのない女を適当に抱いて、憂さを晴らす、ただそれだけの行為……。

心から誰かを想うとか欲するとか、そんなことが己の身に起こるなどあるまいと、諦念とも…いや、確信めいたものを抱いた今になっての、この顛末とは。

これが、己を笑わずにいられようか。

「くだらない……」

何てくだらないことを考えている…自分。

己を嘲って、その手は更に三本目の煙草を探る。
すっかり水気を吸ったそれは、もはや用をなさないと知りながら、それでも手に取った、その時だった。

「隊長さん!?」
「………!?」
「こんなところで、何してるの!?」

こんな暗い路地裏で、こんなに雨に打たれて……。

自らの傘を男の頭上へ伸べる、その姿を…現れた○○の存在を認めた男は、掴んでいた三本目の煙草を放り出した手で、そのまま○○を抱き寄せた。

「ひゃっ!?」
「遅い」
「……ぇ?」

○○まで濡らしてしまうとか、そんな理性も、もちろん彼の脳裏を掠めたが。

「遅いと言ったんだ」

離したくないという思いを抑えきれない己を、本当にまだまだだと自覚しながら、男は濡れそぼった懐に○○を掻き抱く。

驚いた○○の手からは、とうに傘が離れ、二人ともに雨に打たれるままだ。

「た、たいちょう、さん。こんなとこにいたら……」

風邪ひいちゃうよ、と続けようとしながら、○○が彼から離れようとするのは、ひとえに、その身を案じた為だったが。

ぐい!

「ゃっ!?」

僅かに離れることも許さないとばかりに、男は○○を更に強く掻き抱いた。

夜陰に降りしきる、冷たい雨。
体温は奪われていくはずなのに、触れ合う身体は互いに温かい。

こんな風にされることへの羞恥以上に、彼のこんな様を初めて見た○○は、気遣うように、抱きすくめられた隙間から、彼を見上げた。

「何か、あった…の?」

○○には、無理に聞き出すつもりはない。
それはすぐさま男にも伝わり、腕の中から上目使いで見上げてくる面に、知らず、頬がほころんだ。

「いつもは声だけで、落ち着くんだけどな……」
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