第2章 虚実-日本茶屋のお兄さん-
明らかな怒気を孕んでいる彼に身を竦めながら、○○は、ぎゅう、と目を閉じる。
「きっと私が悪いから。だから、一度だけ、ちゃんと謝りたくて」
それだけだから。
もう来ないから。
だから……。
「だから、ごめんなさい!」
彼に嫌悪される何かをした覚えは、今も○○にはない。
それでも彼が怒っているということは、知らずに自分が何かをしてしまった結果なのだと、○○は自責した。
そして、そんな少女の心の機微を悟った彼が、もはや堪えることを放棄するように頬を歪めたことに、項垂れていた○○は気づかなかった。
「私は貴女に、もう来ないでくださいと言いましたよね」
いつも…手ずから淹れてくれたお茶の、その湯気の向こうでふんわりと微笑んでくれていた人が、今は……。
目の前にいるのに、それがとてつもない距離を感じさせて、○○は更に首を竦めた。
「……は、い」
「なのに、貴女は再び現れた」
言葉の最後は、初めて聞く低い囁き。
いつも優雅に茶を入れる男の手が、○○へと、伸びた……。