第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
「だめ?」
どうしても?と重ねる○○は、純粋に訊ねたに過ぎない…のだが、○○に骨抜きどころか、とっくにいろいろ崩壊状態なナギにとって、潤んだ眼差しの上目使い、かつ『だめ?』なんて、日常あまりお目に掛かれない、甘えるようなおねだりは、一瞬気が遠くなりそうなほどの破壊力を持っていた。
「だ、だめじゃ、ないよ」
このまま再び襲いかかりたい、思い切り○○を貪りたい自分を、ナギは霧散していく理性を辛うじてかき集め、堪えに堪える。
そして…眼帯の本当の理由を告げた。
「眼帯の中の目は、キナの目なんだ」
「え?」
「後からそうしたんじゃなくて、生まれた時から。一族みんな、双子はそうやって生まれてくる。片目は自分の目、もう片方は、双子の目。だから眼帯を外すと、今キナの見ているものが俺にも見える」
驚いて目を見開く○○に、ナギは笑った。
つまり、眼帯の中にあるのは、ナギの双子、キナの目で。
だから眼帯を外してしまえば、そこには今現在、キナ自身が見ているものが飛び込んでくる。
それはどんなに離れていても、何処にいても変わらない。
でも、今この時、キナが何処で何をしているかは分からない。
それを不用意に眼帯を外して見てしまう…というのは……。
「結構、恥ずかしいことになっちゃうことがあるんだ」
例えて言うなら、今のナギ自身……。
もしもナギが眼帯を取ったなら、それはすぐにキナに伝わり、何事かあったのかと、キナも眼帯を外すだろう。
そうなれば、キナは、ナギが見ているものを見ることになるわけで。
でも、今そんなことになれば、どうなるか…なんて、もはや言うまでもない。
ナギも○○も、一糸纏わぬ露わな姿……。
ナギの目の前には、情事の余韻を纏う艶やかな肌を晒した少女……。
その様が、キナの目に映ってしまうという、そういうこと…だから。
途端、理解に及んだ○○は呆然というより、ぎょっとしたように眼帯から手を引っ込める…が、その手をすかさず捕らえたナギはくすくす笑った。
「だから、今は駄目」
「う、うん」
ちゅ、と○○の指に唇を寄せて、ぺろり、と舐めて。
「ひゃっ、な、ナギ!」
「だから、これを外すのは、また今度」