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桜の夢に恋する

第1章 今宵見る桃色に


何かに押さえつけられたかのように止まる足
立ち止まって再び彼を見ると片足をついて銃弾をうけた右腕を庇うようにして左腕が重なっている
地面には痛々しく飛び散る鮮血の痕
どうしても行かなければならないと思っているのに動かない


お願いだから動いてほしい


「わ、私の役目は…貴女を最期まで守る…こ、とです…から。だから……」

強い意思には逆らえない
これまで穏やかな声しか聞いたことがなかった
その鋭く突き刺さるような冷徹さに全てを悟った
彼は、菊さんは全てを知っているのに知り尽くしてしまっているのにそれでも生きたいという思いが見える
私でさえ、その一本の刃では勝てないと分かってしまうのに

「私は…それでも立ち向かわなければなりません…分かってください」

彼はよろよろと立ち上がると銀色の刃を掴む
そしていつ見たかというくらいの優しい微笑みを向ける
周りにはいつか一緒に眺めた桜が散る
彼には桜が似合う
綺麗に咲いて儚く散る
たまに思う
桜という存在は貴方自身ではないかと

「大丈夫ですよ」

そう笑った


「行きます!」

最期の力を振り絞って駆けて行く彼
黒い煙の中に消えて行く
そしてどこからか明るい声が響いてくる
遠く遠くだったけれど何かが崩れ落ちる音がした

「HAHAHA!!さぁ、服を脱いで降伏しろ!日本はアメリカのものだー!」

視界が揺れた
全てが終わりを告げた
周りからは相変わらず銃声が聞こえ倒れる者が多く見える
私は狂ったように叫んだ
何もかもが非現実でないのかとそう願いながら

「き、……菊さん!!そ、そんな!嘘だ、嘘だ嘘に決まってる!だって…大丈夫だって言ってたから!そうよね!ね?菊さん!!あ、あぁぁ……」

「さぁ、日本人を全て集めるんだー!HAHAHA!!」



「菊さーーーーーん!!!!」

とある悲劇の中
女性は叫び続けた
帰って来ると信じながら
黒い闇の中で桜は散った
そして日本は戦争に負けた


-本田菊side-

「菊さーーーーん!!!」

「!?」

一体何事かと思い私は急いで彼女の部屋に向かう
午前7時
こんな時間に私の名前を叫んでいるとは相当なことがあったに違いないと足を急がせ彼女の部屋の前まで来た
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