第10章 動く理由
【真愛side】
平常心が戻った後、私は恵さんを追いかけていた
実をいうと、私は恵さんが御庭番衆の人に連れ去られていくところを見てしまった
林の奥へと連れていかれる恵さん
私は、木の陰に隠れ様子をうかがう
メガネの男の人と話す恵さん
あの人が観柳……
聞き耳を立てていると、物騒な言葉が聞こえてきた
「あなたが戻らないんなら神谷道場を焼き討ちします」
私兵団と御庭番衆、そして周辺のヤクザを総動員で、火矢を放つと、そいつは言った
これは脅しだ
恵さんが、NOと言えなくするための
なんて卑怯な手を使うんだろう
「あなたが人を死に追いやる阿片を精製したことは、なんと言い訳しようともう、揺るぎようのない事実ですよ。例え、運良く家族と会えたとしても誉高い“高荷”の娘が、そんなことをしてたなんて知られたらどうでしょうねェ」
私は拳を握りしめた
人の弱みに付け込んで、自分の利益の為に彼女を利用するなんて
許せない
恵さんが、どれだけ苦しんだかなんて知らないくせに
この人、最低だ
焼き討ちは今晩の0時
それまでに考えておけ、と観柳は言うが
きっと、恵さんは私たちを巻き込むまいとして
彼らのもとに戻るだろう
でも、そんなことはさせない
私は、観柳の後を追った
恵さんは、絶対に渡さない
「いい加減出てきたらどうだ」
……気が付かれていた
木の陰から出れば、そこには観柳とお面の人、そしてもう一人背の高い男がいた
背の高い男はきっと御頭と呼ばれている人なんだろう
「今の話聞かれていたようですねェ」
『……恵さんは渡しません』
「それは、彼女が決めることですよ」
にやりと意地の悪い笑みを見せる
私は観龍をにらみつける
本当にこの男は、どこまでも卑怯な手を使う
「般若。ここはお前に任せた」
男は観柳と共に、私と反対方向へと歩き出す
それを追うように走り出すが、
般若と呼ばれたお面の人が立ちふさがった
隠密だという彼だが、その恰好は隠密にふさわしいとはいえなかった
装束は黒で、それらしいが彼の両腕には横縞の入れ墨が施されていた
でも、今はそんなの関係ない
『……どいてください。私は観柳を追わないといけないんです』
「御頭の命令には逆らえん。ここは通さんぞ」