第13章 ツンとデレは使い分けが大事
『私、似蔵さんが死んじゃって悲しい』
「あァ」
『似蔵さんの事大好きだった』
「あァ」
『助けられなかった』
「…そうだな」
『結局結末は変わらなかった』
「…」
堰を切ったようにチサは話し出す。
気づけばいつの間にか胸元に熱い雫。
『動きたいのに体が動かなかった、助けたいのに闘えなかった。抗いたいのに抗えなかった。自分に腹が立つ』
俺の着物を掴む力が強くなる。
「チサ」
初めて名前を呼んだ。
チサはそれに驚いたのか顔をあげる。
目には涙が次々と溢れ出、頬には涙の跡が煌めいていた。
俺はそっとその頬に触れる。
「確かにお前ェはアイツの命を救うことは出来なかった。だが、アイツは最後にお前と言葉を交わし笑っていた」
あの時コイツに向けた穏やかな笑い顔の似蔵が浮かぶ。
「アイツの結末通りの最期はあんな風に笑っていたか?」
チサは静かに首を横に振る。
「じゃあそれはお前ェのおかげだ」
チサの目に溜まる涙を拭い取ってやる。
「お前ェがいたから、アイツは笑って逝くことが出来た。お前ェのおかげでアイツの魂は救われた。
それで十分じゃねェかよ」
『……そっか…。
ありがとう、高杉さん』
そう言ってチサは綺麗に笑った。
俺はガキから手を離し、フンと鼻で笑って煙管にまた火を灯す。
ガキをそれをじっと見つめ、
『ねぇねぇ高杉さん?』
俺に話しかける。
『もう一回名前呼んでくれてもいいんですよ?』
「調子乗んなクソガキ」
『ヒドッ!!さっきはあんなに優男だったのにぃ』
「うるせぇ、切るぞ」
『(´・×・)』
それから、プッと吹き出し声を出してガキは笑った。
いつものように。
それにつられて俺の口角も上がる。
その後はひたすら俺たちは丸く浮かぶ月を無言で眺めて、
どれぐらい経ったか、
ポスンとガキの体が俺に寄りかかった。
『オイ』
ガキの方を見やると、
コイツは安心仕切った顔で寝息を立てて眠っていた。
アホ面。
俺が頭を撫でてやるとガキはふにゃっと笑って、
『っしゅんっ』
あぁ、もう夜も遅い。
夜風は肌寒い。
俺はガキを抱きかかえ、部屋へと帰ることにした。