第13章 ツンとデレは使い分けが大事
甲板に着けば、どこからか聴こえてくる相変わらず綺麗な歌声。
ただ、いつもの澄んだ歌声に、今日は少し哀しそうな、寂しそうな声色が混じって聴こえるような気がした。
俺はそっと声の方へと歩を進める。
船は変わっても、やはりいつものように屋根の上にアイツは腰掛けて歌っていた。
その後ろ姿はあまりにもちっぽけで切なげで、
明るく気丈に振舞っていても、やはり紅桜の一件を気にしていると思えざるを得なかった。
歌い終わり、アイツの溜息が聴こえた。
俺は静かにチサの隣へと向かう。
「よォ」
『うわぁっ⁉︎高杉さん⁉︎いつからいたの⁉︎』
俺に気づき慌てて笑って取り繕っているが、その表情は何処と無く暗い。
バレバレなんだよ、バーカ。
俺はガキの隣に腰掛け懐から取り出した煙管を吸う。
それを見てガキも煙草を取り出し吸い出す。
お互いしばしの間が訪れる。
「もういいのか?」
『?何のことです?』
「似蔵の事だ」
そう言うとガキは、んーと考える素振りしてから、アハハと乾いた笑いを浮かべた。
『今更ウジウジ考えたってどうにもならないですよ。あれが私の精一杯だった、それだけです』
「そうか」
そうは言っても無理してるようにしか聴こえない。
無理に笑ったその顔も苦しそうに見える。
まったく無理しやがる奴だ。
俺はおもむろにガキの腕を引っ張る。
それを予期していなかったガキはあっさりと俺の胸の中に顔を埋めた。
『な⁉︎高杉さん⁉︎』
俺の腕の中で逃げようとジタバタもがくがそれを俺は許さない。
しっかりとチサを抱き締める。
「強がってんのバレバレなんだよ馬鹿」
俺が気付かないとでも思ったか。
『強がってなんかねーし!悲しくなんかねーしィイイ!!』
「まだ言うかクソガキ」
俺はさらに抱きしめる力を強める。
すると観念したのか俺の腕の中で大人しくなった。
すっぽりと覆われ頭のてっぺんだけ見えているガキの髪を撫でる。
「お前ェは無理し過ぎだ。辛い時は泣いたっていい。お前ェにはそれを受け止めてくれる奴なんか山ほどいるだろ」
身じろぎもせず黙りこくるガキ。
しばしの無言の後ポツリと話し出した。
『やっぱり高杉さんには敵わないなぁ』
ギュッと俺の着物を握る。