第13章 ツンとデレは使い分けが大事
『もー!全然一本とれない!!つっかれたー!!!』
寝転びながらジタバタと手足をバタつかせる。
「お前ェは軽すぎんだよ」
だが、その細っこい体の何処にそんな力があるのか疑問には思うが。
『えー、でもマッチョは嫌ですよぅー』
そう口を尖らせるチサを見て、
思わず筋肉隆々なチサの姿を想像して、
………。
「…ぁあ。今のままでいい…」
『ちょっ!高杉さん⁉︎今何を想像したんですか⁉︎』
「なんでもねェ、思い出すから喋んな」
『変なの想像すんなーー!!!』
チサが上体を起こし両手をブンブンと振りながら喚く。
それを余裕で無視して俺はチサへとタオルを投げつける。
ぶつくさ言いながらもそれを受け取り汗を拭く。
「それにしてもお前ェも強くなったじゃねェか。始め拾ったときは弓と怪力だけが取り柄のバカだったってのによォ」
『それは…似蔵さんのおかげですよ』
ポツリ、と呟いて、
『てか、バカは余計ですー!』
またいつものように喚いた。
だが俺はその一瞬のチサの哀しげな顔を見逃しはしなかった。
明るくいつも通りに振舞っていても、やはり似蔵が死んだ事にまだ立ち直りはしてないようだ。
タオルを肩にかけながら少し考え込んでいると、
『ねー高杉さん?』
「あ?」
『疲れたー!おんぶー!』
両手を広げて“おぶれ”のポーズ。
そんなチサを一瞥して、
「ふざけんな馬鹿ガキ」
軽く一蹴すると、再び口を尖らせて不貞腐れるチサ。
そんなブーイングを背にし、
「そろそろ朝飯の時間だ。行くぞ」
構わず歩き出すと、チサもサッと起き上がり小走りで俺に付いて行く。
『今日からご飯モリモリ食べてマッチョになってやりますからねーだ!』
「お前ェ…まだ言うか」
隣でフンとイタズラっぽく笑うチサ。
いつもと変わらない平和なやり取り。
だがその笑顔はどこかぎこちなく。
偽の笑顔を貼り付けたチサの“今日”が始まるのだろう。