第13章 ツンとデレは使い分けが大事
『高杉さん!!朝稽古行きますよ!!』
「……んア?」
もそもそと布団から手を出し、時計を見るとまだ朝の6時。
だというのに意気揚々と俺の部屋へ飛び込んで来たチサ。
『ほらー!高杉さん!!早く!』
チサは未だ眠気に勝てず布団を被り直す俺の手を無理やりひっぱる。
『高杉さんっ!約束したじゃん!!』
“稽古付き合って下さいよ”
ぁあ、アレか。
確かに首を縦に振ってしまった。
仕方ねェ…
俺はもそもそと布団から起き上がりいつものように自身の右目に包帯を巻く。
「俺は眠ィんだ。加減は出来ねェから死ぬ気でかかってこい」
低血圧故にギロリと睨むが、物怖じする事なく笑って頷くガキ。
『もちろんです!高杉さんこそ手抜かないで下さいよ!』
それから数分のうちに未だ気怠い体をガキに半ば引き摺られるようにして稽古場に連行された。
パシッ、パンッ
稽古場に響く竹刀のぶつかり合う音。
稽古なんていつ振りだろうか。
こうして死を考えずに力をぶつけ合う事なんて、もう随分長いことしていなかった気がする。
竹刀同士が激しくぶつかり、俺が反動に怯んだ一瞬にすかさずガキが一撃を繰り出す。
それを俺は体を捻り躱し、
バシッ
ガキの胴へと竹刀を当てる。
『うっ!』
ガキの細い体は軽々とふっ飛び、そのまま尻餅を付く。
『ってて…、も〜、ちょっとは手加減してくれてもいいじゃないですか』
「お前ェが手ェ抜くなっつたんだろうが」
ぶつくさと文句を言いながらも再び立ち上がるガキ。
竹刀を合わせてみて分かった。
チサは俺が思うよりも強かった。
毎朝アイツに鍛えられていただけある。
少しは手を抜いてやるつもりではいたが、思いがけずそんな余裕もない。
気を抜けば一本とられるかもしれない。
元からの俊敏さにあの怪力、
それに刀の使い方を覚えたアイツは恐らく、この鬼兵隊の中でも来島に匹敵、いや、それ以上の実力はあるだろう。
竹刀を握り直したガキが再び攻撃を仕掛け、また俺が一撃を与え吹っ飛ぶ。
それを何回繰り返したか、ようやくガキの息も上がってきた。
「今日はこれぐらいにするぞ」
俺がそう投げ掛けると、ガキは真剣な顔つきを即座に崩し、床に大の字に寝転んだ。