• テキストサイズ

隻眼男と白兎

第12章 紅い桜の木の下で


とある朝早く。

俺はいつものようにチサの稽古をするために訓練場にいた。

しかし、いつも稽古を始める時間になってもチサがやってくる気配はない。

寝坊でもしたのか?

いつも女中の仕事を完璧にこなすチサにしては珍しい。

その日の俺はなんとなく、チサの部屋に迎えに行く事にした。


「チサ?起きてるかィ?」

微かに中で動く気配がしてそっと襖を開ける。


そこには鏡と睨めっこしながら自分の髪を引っ張り四苦八苦しているチサの姿があった。


『わ!わわわ!!仁蔵さん⁉︎ってもーこんな時間か⁉︎』


慌てて髪を手櫛で元通りにし、時計を確認するチサ。

「何してるんだィ?」

俺が部屋に入ると、チサはバツが悪そうに手の中の物を俺に見せた。


『コレ、昨日高杉さんにもらったんですけど…』

手の中には桜の飾りのついた髪飾り。


たかが髪飾り一つに四苦八苦している所を見ると、やっぱり女の子だなと実感する。


「ホラ、おいで。付けてやるから」

ちょいちょいと手招きし、チサを自分の膝の上に乗せてその真っ白な髪に櫛を入れる。

ここへ来て少し伸びたらしい髪を編み込みにし、そこに髪飾りを付ける。

「出来たよ」

チサが鏡を見、そして俺を見て顔をパァと輝かせた。

「すごい!すごいね!仁蔵さん!!超最先端じゃん!』

最先端?かは知らないが、嬉しそうにはしゃぐチサを見ていると、こちらまで嬉しくなってくるから不思議だ。


「じゃあ今日は稽古は無しだな」

俺がはしゃぐチサを横目にそう笑いながら告げると、チサは残念そうに首を傾げている。


「だってせっかく結った髪が台無しになるだろう?」


『アハハ!そーだね!ありがとう仁蔵さん!!』


ほら。


そうやってまたアンタは


真っ白に笑うんだ。





/ 250ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp