第12章 紅い桜の木の下で
その直前、銀さんが目を覚まし似蔵さんの顔面へ一筋の立ち傷を与える。
銀さんは荒い呼吸で刀を杖にしその場に膝をつく。
先程から私は痛みで体が全く言うことを聞かない。
顔面に刻まれた傷に似蔵さんが苦しみの声をあげているのに、
銀さんや神楽ちゃん達がボロボロでそれでも負けじと抗っているのに、
それなのに私の体は動かない。
私は少し離れた銀さんの所まで這い、相変わらず辛そうに呼吸を整える銀さんにそっと触れる。
『…銀さん。私にはもう何も出来ない。…お願い、皆を助けて』
銀さんは私を見下ろし、寂しそうな表情を浮かべた。
そして、クシャッと私の頭を撫で、今度は優しく微笑んだ。
「任せろ。全部終わらせてやるよ」
銀さんがヨロヨロと立ち上がる。
「てめーの妹が魂こめて打ち込んだ刀の斬れ味、しかとその目ん玉に焼き付けな」
そう言い、向かってくる似蔵さんの真正面に立ちはだかる銀さん。
両者共に刀を振りかざし、
お互いが刀を交えた。
しばしの間の後、銀さんの刀が折れその刃が地面へと突き刺さる。
そして、紅桜に亀裂が走り、
砕け散った。
全部、終わった。
ボロボロではあるが物語通り皆無事だ。
似蔵さんも物語通り…
『早く此処から脱出して、この船はもうじき落ちるから』
「チサ、お前はどうするんだ?」
『私は…』
倒れている似蔵さんに目をやる。
『似蔵さんにお別れを言ってくる』
わかった、と銀さんが皆に呼びかけ、船から去ろうとその場を後にする。
『銀さん、ごめんね。皆、傷付けてごめんね』
倒れ込む似蔵さんの方へ私はヨロヨロと歩み寄る。
似蔵さん。
救えなくて、
ごめんね。