第12章 紅い桜の木の下で
また子ちゃんと武市先輩に後ろを任せ、高杉さんは私を相変わらずお姫様抱っこしたまま争い場から逆の方へと急ぐ。
『た、高杉さん…おろして下さぃ…』
「ぁア?」
掠れ声で言う私を高杉さんは見もせず不機嫌な声をあげる。
『皆を助けなきゃ…』
「そんな体で何が出来る」
ゔ……
確かに今こんな体で出来ることはたかが知れている。
でも、こんな所で皆を放って一人逃げるなんて出来ない。
『お願い…高杉さん』
はぁ、とため息をついて高杉さんはそっと私を床に立たせる。
「無茶すんじゃねェぞ」
ポンと私の頭に手を置く高杉さんに私は精一杯笑って見せた。
そして私達はお互い背を向け別々の方向へと向かう。
今頃仁蔵さんと銀さんがドンパチ始めているところだろう。
私は全速力で駆け出す。
少し走れば、刀と刀がぶつかり合う激しい金属音。
見上げると二人は屋根の上で死闘を繰り広げていた。
仁蔵さんの腕、紅桜を見て一気に湧き上がる黒い感情。
憎い。
あんなモノなければ。
あんなモノ作らなければ。
ズキンッ
『…っあ』
あまりの頭痛に立っていられない。
私はその場に倒れこんだ。
どうしてこんな時に?
私を止めようとしているかのように止まない頭痛。
私のこの真っ黒な感情に呼応するかのようにズキズキと痛む。
意識が持っていかれる。
ーー誰も憎んだりしたら駄目よ?
ずっと昔確かにそう言われた事があった気がする。
でも、
誰に言われたんだっけ?
私は屋根の上で刀を交える二人を見上げる。
丁度銀さんが仁蔵さんの腕を突き刺した所だった。
仁蔵さんがその場に膝をつき、苦しそうに腕を抱える。
決着は着いたかのように思えた。
だが、
まだ終わってはいない。
仁蔵さんの腕と代わった紅桜がメキメキと音を立てて、そのコードを、触手を仁蔵さんの身体に巻き付けていく。
右腕をすっぽりと触手で多い、肩を伝い、左腕までが紅桜へと変わっていく。
「⁉︎」
銀さんが仁蔵さんに向かって飛びかかる。
それと同時に仁蔵さんの見えない両の目が見開かれ、
銀さんの首へ腕を巻き付け、地面に叩きつけた。
屋根にはポッカリと穴が空き、銀さんと共に仁蔵さんは下へと降りた。
下にはまた子ちゃん達がいるはずだ。
私も行かなきゃ。