第12章 紅い桜の木の下で
なんとも運の悪い事に、今最も会ってはいけない人ランキング堂々の第一位のお方に会ってしまった。
『高杉さん…』
高杉さんが腕組みをしたままこちらへ真っ直ぐ向かってくる。
こっそり出て行けばバレないと思っていたのに台無しだ。
高杉さんは心なしか険しい顔つきで私を捉えている。
まるで、私がこれから何をしようとしているのか察しているかのようだった。
『高杉さん…、仁蔵さんに紅桜を使わせるの止めてはもらえませんか?』
私は意を決して正直に話す。
高杉さんは相変わらず険しい顔付きで私を見ている。
『今止めないと全部手遅れになります!仁蔵さんも死んじゃいます!高杉さんの仲間も、思い出も、全部取り返しのつかない方に進んでっちゃいます!
だから…』
胸の内を全て吐き出し高杉さんを見ると、
ほんの一瞬、一瞬だけ、どこか寂しそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。
「俺はこの世界をぶっ壊すと決めた時から“かつて”は全て捨てた。仲間も思い出もな。
紅桜の事はもうどうにもならねェ。もし俺の計画をぶち壊そうとしているなら、たとてお前ェでも容赦はしねェ」
そう言い放ち再び厳しい目をして私を真っ直ぐに見つめる高杉さん。
知ってるよ。
コレが春雨と手を結ぶための手段だって事も、
コレは世界をぶっ壊すための足がかりだってことも、
高杉さんがどうしようもなく不器用な人だって事も。
でも…
『…わかりました。高杉さんの邪魔はしません。
でも、邪魔はしないけど、私なりにこの物語を最良の方向へと進めるための努力は惜しみません』
まっすぐに見つめ返し、お互いに無言の間が続く。
どのくらいの無言が続いたか、やがて高杉さんがいつものようにククと笑い出した。
「やってみろ」
『ありがとう!高杉さん!』
やっぱり高杉さんはなんだかんだ言って理解力がある。
私は高杉さんに全力で感謝を述べ、走り出そうとして『ぐえ』高杉さんに襟元を掴まれた。
「怪我すんじゃねェぞ」
ツンデレいただきましたァアアア!!
『ハイ!擦り傷一つ付けない事を誓います!』
私がそう選手宣誓を高らかに叫ぶと、高杉さんは満足気に鼻で笑って手を離した。
気を取り直して、仁蔵さんを追うため私は全力で駆け出した。