第12章 紅い桜の木の下で
夢。
何時ものように真っ暗の中に一人立つ男の人。
ーどうしていつも私の夢にいるの?
問いかけると、
何時もとはどこか違くて、
ヒラリと何か紅い何かが舞った。
気がつけば目の前には紅い桜。
ああ、そうか。
コレが現れたって事は、
ー全ての始まりは今日始まるんだね?
するとその人は、
悲しそうに笑ったんだ。
*****
目を覚ました私は朝から不機嫌爆発だった。
昨日バ神威に連れまわされて帰ってきてお叱りを受けたからじゃない。
もちろん以前のように煙が切れたわけでもない。
知らない間に仁蔵さんが紅桜を帯刀していたからだ。
聞くところによると、高杉さんが丸一日いなかったあの時に入手したらしい。
私は結局、紅桜の存在を完全に無いことにはできなかったのだ。
とは言っても、これから起こるであろう桂さん襲撃や、銀さんが大怪我を負うことはまだ回避できるかもしれない。
そんなワケで私は今日不機嫌ながらも、一日仁蔵さん張り込みをする事を実行中だ。
ホラ、こうしている今だって焼きそばパン片手に「何やってるスか?」
『ヒィっ!』
いつの間にか目の前に立ちはだかるのはまた子ちゃん。
『なんだ、また子ちゃんか』
「なんだとは失礼なやつっスね。何してるスか?」
『張り込みに決まってるじゃないか』
「はぁ?」
私は今立派に刑事活動をしているのだよ。
ホラ、また子ちゃんどいて!仁蔵さん見失う!
…ってアレ?
見失ったァアアアア!!
気が付けば遠くにあったはずの仁蔵さんの後ろ姿はどこにもいなくなっていた。
「それよりチサ、もーすぐ“渡る世間は鬼しかいない”の時間っスよ?見ないスか?」
時計を見るといつの間にか21時10分前。
最近また子ちゃんとドラマにハマって一緒に見ているのだが、今日ばっかりはそんな事も言ってられない。
『ごめん!録画しといてー!!』
また子ちゃんを背に叫び、再び仁蔵さんを追いかける。
しかし、
『いないんだがァアアア!』
どこを探しても仁蔵さんは見つからない。
目撃情報すらない。
たしか仁蔵さんが桂さん襲撃に行くのは夜だったはず。
もしかしたらもう向かって行ってしまったのかもしれない。
私は急いで船の出口へと向かう。
「おいガキ、何処に行くつもりだ」