第11章 ふとした瞬間、トキめく瞬間
「もー、どこ行ってたの?勝手にいなくなっちゃダメだヨ」
いや、勝手にどっか消えたのはアンタだけどな…。
まぁ、そんな事思っても口には出さない。
私達は船に戻るべく帰路に着くことにした。
帰ろうとして一歩歩き出すと、
「そこのカップル!やってかないかい?」
丁度目の前にあった射的の出店のおじさんに声をかけられた。
いや、おいおやっさん。
どっからどー見たら私達がアベックに見えるんだよ。
私には高杉さんがいるんだから!
こんなバカとカップルにしないでくれるかな⁉︎
『いや、私達カップルなんかじゃ「じゃあチサ、せっかくだしやろうよ」
ハイィ⁉︎
ノリノリで銃を構え始める神威。
どうやら神威は大分江戸の屋台を気に入ったらしかった。
「勝負だヨ」
パンッ
狙った玉は小さな駄菓子に見事命中。
「彼氏上手いねぇ」
景品が神威に手渡される。
神威がそれを受け取り、勝ち誇ったようにニヤリと微笑む。
む。悔しい。
対抗して私も銃を構える。
弓道で鍛えた命中力見せてやんよ!!
パンッ
私が狙った玉も見事命中。
もちろん神威より一回り大きい駄菓子。
「おっと、彼女の方が上手いみたいだね」
だからオッさん、私たちは彼氏でも彼女でもないんだよ。
とは思いつつ、景品を受け取り、神威にこれ見よがしに見せつける。
『へへん、私の勝ちでしょ?』
すると、神威が少しだけムッとした表情になって、
「オジさん、もう一回やらせてヨ」
神威がまた銃を構える。
さっきまでとはまるで違う真剣な眼差しで獲物を狙う。
パンッ
神威の狙った玉はまたも見事命中し、景品がゴトンと大きな音を立てて床へ落ちる。
この音からして相当重りが付いていたらしい。
店のおじさんも信じられないような顔をして神威を見ている。
渋々ながらも景品を渡すおじさんの様子を見るに、きっとこの店の目玉商品だったんだろう。
神威が商品を受け取り、
ぎゅ。
…え?
ちょ、
エェエエエ⁉︎
私は神威に抱きしめられていた。
「ひゅー」
店のオジさんの野次が聞こえる。
いや、黙れよおやっさん!
煽るなおやっさん!
アンタはどこぞの中学生か!
私には高杉さんがいるんだって言ってるでしょーが!!(言ってない)