第11章 ふとした瞬間、トキめく瞬間
降り立った場所は、桜並木にたくさんの屋台が立ち並び、たくさんの人であふれていた。
『わぁあー!』
初の江戸の花見に子供のようにはしゃぐ私の隣には、菅笠を深く被った神威。
本当は阿伏兎さんも来たいと言っていたが、船の見張りがいないと、いざという時困るとか言って、神威に強制留守番にさせられた。
可哀想だからお土産買って帰ろ…。
「チサ、俺アレ食べたい!」
突然声を上げ、私の手を引っ張り走り出す神威。
チラリと顔を見ると、子供のように目を輝かせている。
こうしていると年相応の可愛い系イケメンに見えるのに、裏を返せばただの戦闘狂だからなぁ…。
勿体無いやつ。
そんな神威に連れられて最初に向かったのはわたあめ。
粋な店員のおじさんの図らいで少し大きめのわたあめをもらいそれを二人して頬張る。
神威はこういったお祭りが初めてらしく、わたあめを食べた時もおっかなびっくりしていた。
桜そっちのけで食べ物に走るその姿はまさに“花より団子”だ。
次はソレ、次はアレと、無限の胃袋を持つ神威が次々と食べ物に向かっていき、
私は人混みに流され、
『アレ?神威?』
見回しても神威の姿はない。
呼びかけても神威の返事はない。
完全にはぐれたァアアアアア!!
こんな人混みの激しい所じゃ神威一人見つけることなんか不可能に近いが、仕方ないから神威を探しに歩き出す。
一応せっかくの花見なのに全然桜を見ている暇もない。
キョロキョロしながら歩き進めていると、やがて一つの屋台を取り囲むかのように野次馬で溢れているのを見つけた。
あのバカなら何か問題を起こしかねない。
あの先にいるかもしれない。
そう期待を込めて野次馬の群がる先へ走り出した。