第10章 酒は飲んでも呑まれるな
『あれ?高杉さん?…私…』
やっと目を覚ましたらしいガキは酒の名残でズキズキと痛むらしい頭を抱えながら起き上がった。
『あれ?皆は?』
キョロキョロと辺りを見渡すチサ。
シュークリーム合戦が始まり、俺は被害を受けないようにそそくさと離れた静かな場所に逃げていた。
それより、
「覚えてるか?」
ずいっとガキに言い寄ると、
ボンっと赤くなったかと思えば一気に顔を青ざめた。
『覚えてないわけないじゃないっすか!とりあえず落ち着け、落ち着いてタイムマシーンを探せェエエエ!!』
どうやらはっきりと覚えているようだ。
テンパって意味不明な事を叫ぶガキを見ていると、なんだか可笑しくて笑みがこぼれてしまう。
『ククっ…ほら、コレやるよ』
懐から取り出した桜の飾りがついた髪留めをガキに差し出すと、今度はキョトンとした顔で俺を見上げる。
『ホワイトデーだ』
ホワイトデーなんか送ったこともねェが、コイツには特別だ。
驚きながらも嬉しそうに髪留めを受け取るガキ。
『なんか私、高杉さんにもらってばっかりだな』
「もらってばっかりなのは俺の方だ」
聴こえないぐらいでいったはずが、微かに聴こえたようで、え?と目をパチクリさせるガキ。
「フン、出世返しだからな」
慌てて取り繕い、頭をポンと撫でてやると、照れたように笑った。
そして後ろを向きささっと髪を掻き分けて、
『どうですか?』
髪留めを付け、ガキが少し顔を赤らめ、満面の笑顔で振り向いた。
ほらな、お前ェはいつもそうやって俺に笑顔をくれるんだよ。
チサの笑顔を見ていると、俺の中の獣も大人しくなる。
かつて亡くした大切な人を思い出させてくれる。
だから、コレはその礼だ。
「あァ、俺の見立てに間違いはねェ」
照れ隠しにそう言い、サラサラの白い髪を撫でてやると、恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうにまた笑った。
『お礼に一曲ご披露します!』
「あァ、頼む」
息を吸い込み、その澄んだ綺麗な声で歌い始めた。
目を閉じ、その歌を全身で感じる。
コイツの歌声はやけに俺を安心させる。
あァ。
やっぱりお前ェのその歌は、
俺のためだけに歌ってくれ。