第9章 笑顔に騙される事なかれ
「そこまでだ」
突如聴こえたのは低く暗い声。
「そのチビから手を引け」
廊下の暗がりから現れたのは不機嫌MAXの高杉さん。
隣に息を切らせたまた子ちゃんがいるあたり、きっとまた子ちゃんが高杉さんを呼んで来てくれたんだろう。
高杉さんが、未だお互いに力を緩めることがない二人の隣を通り抜け、私を後ろに隠すように立つ。
「これ以上鬼兵隊の貴重な戦力を削るのは止めてもらおうか」
高杉さんがギロリと神威を睨みつける。
そんな高杉さんを神威が一瞬血走った眼で睨み返したが、すぐにいつものニコニコ顏に戻り、やれやれと肩をすくめた。
「ちぇー」
つまらなそうに不貞腐れながらも攻撃体制を止める神威。
それにつられ仁蔵さんも刀を下ろす。
「オイ!何があった⁉︎」
ドタバタと遅れて登場するのは阿伏兎。
最早穴だらけになった廊下
高杉さんの後ろで威嚇する私
刀を握る仁蔵さん
神威を睨んでる高杉さん
笑顔で阿伏兎に手を降る神威を順番に見て、
「な⁉︎⁉︎何してんだこのスットコドッコイィイイ!!」
現状を察したようだ。
阿伏兎さんの顔がみるみるうちに真っ赤や、真っ青に変化していく。
本当においたわしや苦労人。
「まぁまぁ、春雨と鬼兵隊は協定を結んだワケだし、これから仲良くしてこうヨ」
阿伏兎を除く全員の敵意の視線を浴びながらも、何食わぬ顔でスタスタと私の方へ歩く神威。
「今日は楽しかったよ、チサ」
私を後ろに隠す高杉さんの前で立ち止まる。
コッチゎ全然楽しくないよ!!
フシャーーー!!
と、私は高杉さんの後ろに隠れながら威嚇する。
そんな私に神威は困ったように笑った。
「チサはもっと強くなれるよ。だから、次会う時までに鍛えといてね」
神威が高く跳んだ。
「今度こそ本気の殺し合い、しようね」
いつの間にか私の隣に着地した神威が、
私の手を取り、その甲に軽くキスをした。
皆が硬直した。
あの高杉さんでさえも。
私は、ふるふると震えていた。
恐怖
怯え
悲しみ
そんなモノは一切無い。
湧き上がる感情はただ一つ。
怒り。
『ぜっっってぇ嫌だ!!とっとと帰れ!バ神威!!』
私の怒声が船内中に響き渡ったのは言うまでもない。