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隻眼男と白兎

第9章 笑顔に騙される事なかれ


その後商談は順調に進んでいるそうだ。


私はというと、今は女中の仕事である洗濯物を理由にあの騒動の後すぐに退散した。


ヤなやつ!ヤなやつ!ヤなやつ!!

あんなヤツ、“神威さん”から“神威”に降格してやる!


神威への不満を叩きつけながら洗濯物を干せば、いつも以上に仕事ははかどった。


闘う事が夜兎の本能なのは知ってる。

高杉さんがあんな兎に負けることはない事も信じてる。

でも、それでもやっぱり私は高杉さんを傷つけようとする奴は許せない。


洗濯物を干し終え、鬱憤晴らしに訓練場に行こうとズンズンと廊下を歩いていると、

背後から突然の鋭い殺気。

「みィつけた」

途端に悪寒が体中を駆け巡る。


恐る恐る振り返ると、

そこにはやっぱりニコニコ笑っている神威。

上辺だけの笑顔と、隠せていない殺気を纏って嗤っている。

刹那、神威が眼を見開いてこちらへ拳を向け突進して来た。

私は寸手の所で後ろへ跳び、拳を躱す。


「おネーサン名前は?」


『へ⁉︎……新 チサだけど』

突然のことに咄嗟に私は名乗る。


「俺は神威。
やっぱり強いネ、チサ。俺と勝負してよ」



は⁉︎⁉︎

何言っちゃってんのこのコは⁉︎

だってホラ、さっきキミが攻撃して来たトコ、床に穴空いてるからね⁉︎

アンタなんかと戦ったら命がいくらあっても足りねぇよ⁉︎⁉︎


私はサッと身を翻して走り出した。

何時になるかわからないが、その時が来るかもわからないが、神威が飽きてくれるまで。



しかし、

もうかれこれ何往復も船の中を逃げ回っているが、一向に神威が諦める気配はない。

そろそろ体力も限界が尽きてきた。


何往復目かのスタート地点に差し掛かった時、神威が大きく床を蹴った。

そして


ドゴォオオオン

床を突き破った衝撃に巻き込まれ私は派手にコけた。

「もう鬼ごっこは飽きちゃったからさ、そろそろ本気の殺し合いをしようヨ」


飽きたなら追ってくんじゃねぇよォオオ!!


そんな私の心の叫びも虚しく、神威はじりじりと真っ黒い笑顔で私に近づいてくる。


私は床に膝をついたままズルズルと後退りする。


「何もしないで死んじゃうよ?」

神威の拳が頭上に振り上げられる。



その時、神威の足元に銃弾が弾いた。

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