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隻眼男と白兎

第9章 笑顔に騙される事なかれ


神威さんは席に着くやいなや、猛スピードで料理を口に運ぶ。
最早残像しか見えない。

隣の阿伏兎さんはというと、そんな神威さんを呆れ顔で見つめている。
相変わらずの苦労人ぶりだ。



この二人が来たってことは大方今日のこの商談は、紅桜前の春雨との協定結びってコトか。

紅桜編を何とかしたい私にとっては、こんな商談ぶち壊してやってもいいけど、それはきっとなんの解決にもならないからよしとこう。

大体そんなコトしたらコッチの命がぶち壊されかねないしね。
今日は大人しくしておこう。



「さっそく商談の話に入りたいのですが」

個性であるござる口調を失った万斉さんが口を開く。


神威さんがピタと食べるのを止めた。

「それよりさ」

神威さんの目つきが変わる。
表面上笑ってはいるが、まるで獲物を狩る者のような鋭い眼光。


「俺と勝負してよ。鬼兵隊総督さん」


瞬間、もの凄いスピードで神威さんの拳が高杉さんに向かう。


バシッ!


『高杉さんを傷付ける事は許しません』


「へぇ」


考えるより先に体が動いた私がその拳を寸前の所で受け止める。

そんな私を、まるで面白いオモチャでも見つけたような目で見つめる神威さん。



…やっちまった。

…完全にやっちまったよコレ。

今日は大人しくしていようと決めた矢先にコレだよ。

もう完全にコレ皆に怒られるやつだよ。



私が今更に顔を青ざめさせていると、私を真ん中に、高杉さんを守るように取り囲む三つの姿が見えた。

「いくらお客様と言えども許しませんよ」

「晋助様に何するスか」

「あまり調子に乗るなでござる」

それは、怒りを顕にした皆の姿だった。

この事態を予測していなかったのはどうやら私だけじゃないようだ。

我等が総督を傷つけるのは此処では絶対のタブー。

皆の怒りがひしひしと伝わる。


と、いうことは、私は怒られない!よっしゃ!!


当の高杉さんはというと、流石は総督。この事態を予期していたのか、驚きもしないし、微動だにしていない。


いつものようにククと嗤う。

「ここで俺とやり合うのはよした方がいいぜ。
この通り優秀な番犬共が目を光らせてるんでな」


「そうみたいだネ」

パッと元の笑顔に戻った神威さんは奮った拳をそっと下ろした。

「そもそもそんな気は最初からないから安心してよ」

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