第27章 猫耳は正義
「ガキのくせに生意気じゃねェか」
また私の髪をクシャクシャと掻き乱した。
それは、いつもの強くて乱暴で、だけど優しくて暖かい高杉さんの手だった。
『ちょ!高杉さん!禿げる!私のキューティクルがァア!!』
「元からボサボサだろ」
『なんですとォオオオ!!』
いつものようにふざけ合って、そして私達は顔を見合わせて笑った。
「そういやァ、お前ェと出会ったのも此処だったな。
…そうしてみると、お前ェはもしかして俺を止めるために先生から呼ばれたのかもしれねェなァ」
いつの間にか吸い出した煙管の煙を吐きながら、高杉さんは突然しみじみと呟くように言う。
『そんなまっさか……』
言いかけて、ハッとした。
待って。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
どうして今まであの人の事思い出せなかったんだろう。
私の夢に出てくるあの人、
高杉さんの大事なあの人、
あの二人は……
同じ人。
どちらも吉田松陽その人じゃないか。
まるでフィルターが取れたかのようにはっきりと思い出した高杉さんの先生の姿に、私は思わず頭を抱える。
…だとしたら本当に私は、
高杉さんの先生に呼ばれてこの世界にやって来た…?
「オイ、どうした?」
俯く私の顔を、高杉さんが訝しげに覗き込む。
『…もしかしたら私は本当に高杉さんの先生に呼ばれて此処に来たのかもしれない』
頭がこんがらがって、パンクしそうな思考でやっとそれだけ言葉を紡ぎ出した。
私の夢に出てくる吉田松陽、高杉さんの亡き先生である吉田松陽。
私がこの世界で最初に出会ったのは高杉さんだった、
その事に、この人が無関係であるとはとても思えない。
『…きっと、高杉さんを支えるために、高杉さんが独りになってしまわないように、私を呼んでくれたのかもね』
独りで闇に落ちてしまいそうな高杉さんに、人の温もりと優しさをもう一度教える為に。
「ククッ、だとしたら随分うるせェやつを連れて来たもんだなァ。
こんなやかましい奴がいたらそうそう独りなんかなれやしないさ」
そう言っていつものように笑って、歩き出す高杉さん。
『もういいんですか?』
私が尋ねると、高杉さんはチラリと私を振り返って、
「一緒に殴られてくれるんだろ?
…なら、また来ればいいさ」
優しく笑っていた。