第25章 世界中いつも誰かがハッピーバースデイ
「いって…呑みすぎたか…」
気が付けば空は明るくなりかけていた。
部屋中が来島の開けた穴と銃弾と、疲れ切って寝てしまった死屍累々の山で埋め尽くされている中、俺はガンガンと響くように痛む頭に顔を歪ませながら、同じく疲れ切って寝てしまったらしいガキを抱き抱えて自室へと戻っている。
(馬鹿兎は阿伏兎が引きずって持って帰った)
「晋助」
背後から突然かけられた声に振り向くと、同じく酒酔いで頭を抱えた万斉が廊下の暗がりにいた。
「何だ?」
「いや、まだお主に贈り物を渡していなかったと思ってな…」
そう言って万斉は手に持っていた紙袋に手を入れガサガサと漁る。
あの万斉が贈り物だと…?
珍しい。明日は嵐が来るんじゃねェか?
と思ったが、
「お主は最近煙管だけでなく甘味にも凝っているらしいからな。ちゃんと朝昼晩毎日しっかり歯磨きして虫歯には気をつけるでござるよ」
そう言って渡されたのは、
性能の良い電動歯ブラシとデンタルケア用の薬品。
「お前ェは俺の母親か」
コイツ、嫌がらせか?
俺が呆れながら万斉を見ると、万斉はフッと笑って、
「冗談でござるよ。本当はコッチでござる」
そう言って手渡されたのは一枚の紙切れ。
裏をめくると、
「オイお前ェ、こんなのいつ撮った」
無垢に笑うガキが映った写真だった。
「こんなのいるかよ」
「(とか言ってちゃっかり受け取るのでござるな)」
写真はしっかりと俺の懐に仕舞う。
こんな写真、ガキが映った写真なんかいらねェけどよ、
まァせっかく万斉がくれたモンだからな?
…言っとくが、本当にいらねェんだからな?
「まぁ、それも冗談でござるが…」
…冗談かよ!
そしてまた俺に万斉が手渡してきたのは、
趣味の良い黒の羽織だった。
「夏を過ぎたら寒くなってくるからな。薄着ばかりしてないで暖かくしてるでござるよ」
ククッ。
やっぱりお前ェは母親かよ。
「礼を言う。これはありがたく使わせてもらうぜ」
そう言ってひらひらと手を振りながら再び自室へ戻ろうと足を進める。
チラリと見た万斉の顔は、どこか満足そうに微笑んでいるのが見えた。