第21章 始業式HRまで闘いは続く
ヒュルヒュルヒュル〜
ドーン
目の前に映るのは、大きな大きな花火。
『うわぁ!!すごーい!』
私は思わず歓声を上げた。
『あ!あのハート逆だ!』
「あァ、そうだな」
『高杉さん!アレ!凄いね!綺麗だね!』
ぐらっ
『うぎゃあっ!』
はしゃぎ過ぎて木から落ちそうになる私の背中を高杉さんはそっと支える。
「あんまはしゃぐな。落ちるぞ」
『ウィッス』
あぁ。また顔の体温が上がる。
咄嗟に頭に付けている面を顔に持って来ようとして、
「今はソレやめろ」
高杉さんに阻止された。
高杉さんは満足げな顔をして黙って花火を見上げる。
私の目に映るのは、
色鮮やかな大きな花火と
花火を見上げる高杉さんの横顔。
高杉さんの綺麗な紫の髪に、まるで夜の水面に光が照らされているかのように花火の色がキラキラと映り込む。
幻想的で、まるで世界に私達二人きりしかいないかのような錯覚すら覚える。
大好きな人と二人隣に並んで花火を見ている。
こんなに幸せな空間があるなんて知らなかった。
『好きだなぁ』
「あ?」
小声で呟いたはずが高杉さんの耳にちゃんと届いていたようで、高杉さんが驚いたような表情を向けた。
『え⁉︎あ!あー!花火!花火がですよ!
そう!花火!あー、私花火大好きだなぁと!』
慌てて言い繕う。
気が動転して自分でも何を言ってるのかわからない。
こんな言い方じゃ高杉さんに私の気持ちがバレてしまうのではと思ったが、
「そうか」
そう言って優しく笑ってまた空を見上げた。
良かった、バレてないみたい。
「俺も好きだぜ?」
…え⁉︎⁉︎
『…花火がな』
さらりとそう付け加えて、
それからまた笑った。
私は…
「オイ、それやめろって言ってんだろ」
『いや、ちょっと今は私用でムリデス』
咄嗟にひょっとこ面を顔に装着。
「私用ってなんだよ」
そう言って笑う高杉さんの声が聴こえた。
真っ赤な私を見られたら、さすがにこの気持ちが伝わってしまうかもしれない。
…鈍感な高杉さんの事だから気づかないかもしれないけど。
高杉さん。
どうか今はまだ気付かないで。
この距離を
この心地良い居場所を
私はまだ壊したくないから。