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隻眼男と白兎

第19章 お家に帰るまでが任務


ソイツは口元に怪しい笑みを浮かべると、つい先ほどまで四苦八苦していたはずの敵の拘束を簡単に振りほどいた。

突然のソイツの豹変ぶりに何人もの天人が動揺し、立ち向かうが、

簡単に躱し、反撃し、

殺した。


その顔はどこか愉しそう嗤ってる。

歪んだ笑顔。


何時ものアイツじゃねェ。
アイツはそんなに簡単に誰かの命を奪う事なんてしない。

どんなに自分の身が危うくとも、結局他人の事を気遣ってしまう。


姿形、愉しそうに笑う声はどんなに否定してもガキ自身だと頭ではわかっているのに、

俺の心は、アレがチサである事を否定する。


まるで別人のように変ってしまったソイツを、俺はただ呆然と見ている事しか出来なかった。

俺を取り囲んでいた敵も今では全員がソイツへと向かっている。


アイツは次々と繰り出される敵の攻撃をいつも以上に軽々と躱し、敵の手に握られていた愛用の弓を奪い返した。

そして、突然自分の腕を自身の爪で切り裂いた。

その腕からは大量の紅い筋が流れ地面に滴り落ちている。


すると、突然弓が折れ、

ソイツの血を纏って、見覚えのある真っ赤な盆傘になったのだ。


まるで始めからその使い方を知っていたかのように、ソレを振りかざし薙ぎ払い、先端から銃弾の雨を降らす。

さらに、空いている左手で敵を素手で貫いて殺す。



ほんの数分しか経っていないだろう。


あっという間に部屋中に屍の山を築き、


最後に立っていたのは俺とソイツだけだった。



「…オイ」

呼ぶとソイツの体はピクリと反応して、

瞬間、目の前に迫ってきた。


返り血すら浴びていない白い顔で俺をじっと見つめて、


フラリと倒れこんだ。




あの怪力、

あの盆傘。



間違いない。



アイツは…




夜兎族だ。





倒れ込んだガキを受け止めた俺の手は震えていた。


偶然拾ったガキが思わぬ戦力である事への歓喜の感情がないわけでは無い。



だが、

それ以上に今の俺を蝕むのは、




恐怖。




圧倒的な力への恐怖。

騙されていた事への恐怖。疑問。


紛れも無い恐怖が俺の心を覆い尽くした。


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