第16章 深夜のホラー映画のCMほど怖いものはない
一人甲板で煙管をふかす。
…幽霊なんかいるわけねェだろ。
居るとしたら、何故あの人は俺たちに会いに来てくれない?
煙を吸ってこのムシャクシャを落ち着かせようとしても治るわけもなく、俺は艦内へ戻ろうと踵を返した時、
不意に足元にチクリと針で刺したような痛みが走った。
その途端ぐらりと視界が歪み、俺の体は膝から崩れ落ちた。
『高杉さーん?機嫌損ねてないで出てきてくださいよー。高杉さんの好きなおはぎ作りましたよー』
どこか遠くから空気の読めないバカの声が聴こえる。
『出てこないなら高杉さんの分も私食べちゃいますからねー?』
…うるせェ。
お前ェ太るぞ。
『……って、高杉さん⁉︎』
やっと気付いたらしいチサの足音がこちらに猛スピードで向かって来て俺を支える。
『何があったんですか⁉︎』
……ぎ……
『なんですか⁉︎』
「…おはぎ……お前ェの分…も、寄越せ……」
『いやいや!それどころじゃないでしょーが⁉︎⁉︎食いしん坊万歳かっ‼︎』
いや。おはぎだぞ?死活問題だろうが。
馬鹿はほっといて、意識が朦朧としてくる中辺りを見渡して、
ソレは居た。
「あ…赤い着物…女…?」
船の下にへばりつく赤い着物を着た長い髪の女と目があった。
そのまま俺は意識を失った。
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「まさか晋助までもが被害にあってしまうとは…」
急に倒れた高杉さんを自室へと運んだ後、私は万斉さんの所へ駆け込み今あった経緯を説明し、今私たちは再び高杉さんの部屋にいる。
「これはいよいよ鬼兵隊壊滅の危機でござるな。
早々に手をうたねばならないでござる」
万斉さんが高杉さんの容態を確認しながら深刻な表情で呟く。
『でも幽霊相手にどう戦うんです?』
もしこの一連の犯人が本当に幽霊だった場合、実態のない幽霊にどう対処するのか。
私は首をかしげる。
「それを今から考えるでござるよ。
晋助も容態は安定してる事だし…
チサ、今から一緒に来てくれるか?」
私は万斉さんの問いかけに首を縦に振り、去り際に寝苦しそうに顔を歪める高杉さんの頬にそっと触れる。
『ひっく…高杉さん…
高杉さんの仇は私がうつからね』
「いや、晋助死んでないから」
『高杉さんの弔合戦じゃァアアア!!』
「いや、晋助死んでねーから」