第2章 ユキとファル
『決めた』
「‥‥‥‥」
ファルをここから連れ出す。
『ファル‼ここから出よう‼』
「‥‥‥‥‥‥」
私がぐっと力を入れて言うと、ファルはそっぽを向いた。
「‥‥無理だ」
『何で‼‥‥‥‥こんな所に一人ぼっちなんて‥‥寂しいよ‥‥」
「‥‥ふっ」
何故かファルは笑った。
『何が可笑しいの!』
私が少し怒ったように言うと、ファルは私の頬をむにっと引っ張った。
「お前、俺は酷獣だぞ」
『‥‥‥そへが何ほ(それが何よ)』
感情に人間も酷獣も無い。酷獣にだって痛みがある。悲しみがある。優しさがある。寂しさだって絶対あるのに。
「‥‥っ‥‥っふっ‥」
私は真面目に答えたつもりだったけど、ファルはツボに入ったらしい。堪える様にして笑っているのだ。
「人間が皆お前のように馬鹿ばかりだといいのにな」
むにむにと私の頬を引っ張る。
『へんはふっへんほ⁉(ケンカ売ってんの⁉)』
私の頬で存分に遊んだあと、ぺチンと軽いデコピンをくらわされた。
『ほぉぅぅ』
私が情けない声で狼狽えると、クルッと後ろを向いて呟いた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥帰れ」
『ファルも一緒にね』
すかさず返すと、ファルは軽くため息をついた。
「‥‥俺はここから出られない」
力強く、落ち着いた様子で喋っているけど、その瞳はとても寂し気だった。
『‥‥‥‥‥私‥‥‥』
‥‥‥‥私ならファルをここから出してあげれる。
‥‥けれど‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
『‥‥‥私なら貴方をここから出してあげることが出来るよ』
「‥‥何?」
『‥‥ただね‥‥これを使うと私‥‥‥‥』
ゴクリと唾を飲み込む音。
『お腹が空くの』
「今すぐ俺をここから出せ」