第2章 ユキとファル
『(ぐぅうぅぅうぅ)』
沈黙を破ったのは私のお腹だった。
「‥‥五月蝿い」
『‥‥お腹空いた』
今日は厄日だろうか。ずっこけて、押し倒され、腹がうるさいと文句を浴びる。最悪の一日だ。
『‥‥‥‥ねぇ』
「‥‥‥‥何だ」
『‥‥そろそろ退いてくれない?』
「‥‥‥‥‥‥」
少し躊躇ったが、素直に退いてくれた。
『‥‥‥‥‥‥‥‥』
「‥‥‥‥何だ」
私がじっと見つめていると、不満気な声をあげた。
『‥‥酷獣‥‥』
「‼‼」
私が呟くと、ファルは目を見開いたように驚いた。
「‥‥‥‥お前‥‥何者だ」
さっきは押し倒されて逆光でよく見えなかったけど、とても綺麗な銀の髪に、漆黒の瞳。酷獣の特徴を全て捉えていたからすぐに分かった。
『‥‥‥‥‥‥』
何故ファルがここにいるのか、やっと分かった。
さっき私が引き千切った縄のような物は、ファルを封印するためのもの。
‥‥酷獣はとても凶暴で、人々から恐れられていた。だからファルはここに封印されていたんだ。
‥‥たった一人で。ずっと。