第49章 愛しています
…ただあの時は、1度目は唐突過ぎただけなのだ。2回目だから耐性がついたと言うわけではないが、前回よりは少しだけ取り乱すことなく落ち着いていられる
また1つ深呼吸して、「テツヤ」と彼に小さく呼び掛けた
名前
『ありがとう。キセキの世代から…みんなからあたしのことを思い出させてくれて』
黒子
「僕も忘れてた身ですけどね」
名前
『いいの』
黒子
「それに…僕1人の力じゃないですよ。誠凛と、あの時会場に来ていた観客のおかげです
もちろん、キセキの世代も」
名前
『じゃあできる限りの人にお礼言っといて』
黒子
「自分で言ってください」
名前
『ムリだよ』
黒子
「…じゃあ、また戻ってきて言ってください。約束です」
名前
『…うん。約束ね』
テツヤにそっと小指を立てた右手を差し出すと、ふわりと微笑んで同じように立てた右手の小指を彼は絡ませてきた
少し名残惜しいが、その小指を離してテツヤにもう一度だけ笑った
黒子
「じゃあ、待ってますから」
名前
『うん。またね』
テツヤとそう言葉を交わし、彼ははゆっくりあたしの前を通って開いているドアの目の前に立った
ゆっくりと彼は踏み出して、あたしは通ることができない見えない壁を少しずつ、本当に少しずつ通っていた
黒子
「名字さん」
名前
『ん?』
黒子
「これ、あげます」
名前
『ブレスレット…いや、ミサンガか?えっ、ありがと』
黒子
「…大切にしてくださいね」
名前
『…じゃああたしからも、どうぞ』
彼から貰ったのは片方の端に輪ができており、その反対側に鈴がついているミサンガだった
恐らくその輪を鈴に通せば、ブレスレットになるのだろう
そんな彼にあたしはシュル…と小さく音を立ててタイを取りテツヤに渡すと彼は「ありがとうございます」と笑った
そんな最後の言葉を交わし、テツヤは部室に留まっている左足を浮かせ、タイを握っている右手を前に出し外へと出た
テツヤの背中が完全に見えなくなった瞬間に、あたしの意識はゆっくりと飛んでいき、瞼を閉じた
どこか遠くで、優しい声が聞こえた気がした