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【黒子のバスケ】トリップしたけど…え?《2》

第44章 倒そう




名家・赤司家、征十郎はその家の長男として生まれた。由緒正しい家柄ゆえに家訓も厳しく、人の上に立ち、勝つことを義務付けられた

父はこの上なく厳格な人物だった。物心がつく頃には英才教育が始められ、その量は大人でも音をあげるであろうもので、彼に自由はほとんどなかった


そんな過酷な幼少期を彼が耐え抜く支えとなったのは、優しい母と母が父を説得し作られたわずかな自由時間に始めたバスケットボールだった

彼にとってバスケットボールをしている時間は何より楽しく才能にも恵まれ、限られた時間でもすぐに上達した


だが、彼が小学5年生になったある日、彼の大きな支えであった母が病で急死する
その後の父は、それを忘れようとするかのように厳しさが増し、習い事や勉強の量も増えていく

彼にとって不幸だったのは、そのことより、それを全てこなせてしまうほどの器量を持ってしまっていたことだった。こなせばこなすほど量は増し、教育は加速していった

そして、この頃から彼は不思議な感覚を持つようになる。学校に行っている時の自分と、家にいる時の自分が、何か違う、自分がもう1人いるような感覚


小学校を卒業後彼は帝光中学校へ進学、伝統的強豪のバスケットボール部に入部する
強豪なだけあり、練習はハードなものだったが、苦ではなかった

掲げる唯一絶対の理念は「勝利」、だがそれも、スポーツであれば当然だと思っていた
それ以上に、彼にとって思う存分バスケットボールができ、その仲間と過ごす日々は楽しかった


だが2年生時…全中二連覇を達成する前後から様子が変わり始める

監督が病により、急遽交代し、その後チームは勝利至上主義の色を強めていく
さらに同時期、仲間が次々と才能を開花させ、主将である彼にも統制できなくなってくる

勝利は義務になり、重荷となり、仲間の成長は手に負えなくなることへの恐怖、置いて行かれることへの焦りとなった


気が付くと、バスケットボールを楽しいとは思わなくなっていた
それは残っていた支えが消え、彼の精神的な負荷に逃げ場がなくなったことを意味していた


そして、もう1人の赤司が生まれた

それ以降は常にもう一人の彼が意識を支配し、勝利至上主義をさらに押し進め、全中三連覇を達成
そして、本来の彼は意識の底に沈み、そのまま上がってくることはなかった





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