第7章 本田菊さんの彼女。
しばらくの沈黙の後、本田君が口を開いた。
菊「…心夏さんが良いのでしたら、……前に三人で暮らしていた家に行ってみますか…?」
心夏「……え? …あ、うん…いいよ」
実はちょっと怖かったりする。
そんな私の気持ちを察してくれたのか本田君は私の手を握ってくれた。」
菊「…心配することはありませんよ。」
心夏「う、ううん…?心配なんてしてないよ?早く行こ!」
菊「……はい」
二人で夕暮れの景色を眺めながらゆっくり、ゆっくり歩いて行った。
夕日が沈みきるまで。
菊「…ここですよ。」
着いた先は、物凄く立派な和風の家。
"貴族"って言われても納得できるような立派な家。
心夏「…ここって…今誰か住んでるの?」
菊「いえ、昔のままですよ。掃除には桜がちょくちょく来ているみたいです。私はここを少し避けていたので…来たのは久々です。」
しばらく外観を見た後、恐る恐る足を運ぶ。
前に散歩していた道は少しだけ覚えていたけど、ここの家は全く。
不思議なくらい思い出せない。
菊「…懐かしいですねぇ。相変わらず、という感じでしょうか。」
心夏「…ここ、思い出せない…;」
菊「……無理に思い出すことないですよ。 とりあえず中に入りましょうか。」
玄関はドアじゃなくてふすま。
ガララララと、なんとも日本の建物らしい音を立てる。
家に入った途端、畳と木の匂いに包まれる。
心夏「畳と木のいい匂いがする…」
菊「素材にはこだわってましたからね」
にこ、と優しい笑顔を浮かべる。
心夏「………高校生で家持ちって…どういう―――」
菊「ささ、奥へどうぞ。」
心夏「……あ、はい…」
…完全シャットアウトされた。