第6章 私の記憶
話が始まった。
菊「…心夏さんのご両親は、貴女が4歳の時に亡くなった、ということはわかりますね?」
心夏「…うん」
菊「親戚の人に引き取ってもらったと聞きましたが、そこで色々暴れて、親戚の方は貴女を施設に送ったそうです。
ですが、施設でも精神状態が安定しなかったらしく、毎日毎日貴女は泣いて、暴れての繰り返しでした。
そんな貴女を毎日見ていました。
珍しくおとなしくなっても、いつも悲しそうな表情ばかりで、笑ったところを私は見たことがありませんでした。
毎日苦しんでいる貴女を見ていて、居ても立っても居られなくなり、私と桜は施設の方に頼んで貴女を引き取ることにしました。
しかし、私の家に来ても状態は何一つ変わりませんでした。どうしても貴女を笑顔に、幸せにしてあげたいと思う気持ちだけが大きくなり、月日ばかりが過ぎて行きました。
ですが、私の家に来てから約1年が過ぎた頃。その時はいつもの様に散歩をしていて、大きな桜の木の下で休憩をしていました。いつもなら、散歩をしている間に私から避けようとして走ったり叫んだりして、貴女は疲れて毎回寝てしまっていました。けれど、その日は違いました。桜の木の後ろに隠れて何かをしていました。見ようとすると、「見ないで!」と怒るので、しばらく好きなようにさせておきました。
大体30分ぐらい経ったころでしょうか。自分の後ろに何かを隠して私の前にやってきました。ちょっと頬を染め、隠していたものを私に渡しました。
それは、まだうまく書けない字を必死に使って書いた手紙と、シロツメクサで作った冠でした。
これを私に渡すとき、「いつもありがとう」と小さい声で呟いて、初めて私の前で笑いました。その瞬間は信じられなくて、涙だけがぽろぽろと流れてしまいました。
次の日から段々貴女は笑顔が絶えない明るい子になっていきました。」