第4章 過去、過去、過去
―菊side―
『菊お兄さん』
その一言が頭からどうしても離れない。
ただ、昔呼ばれていただけなのに。
心夏さんには、もう昔のことは忘れてもらおうと極力過去の話はしないようにと決めていたのにもかかわらず、つい、記憶が戻ったのか確認してしまう。
それは、私が貴女に再度溺れてしまったからでしょうか…?
惚れた方に忘れられてしまうなんて、なんて無様なんでしょうか。
本当、私は馬鹿。大馬鹿者です。
私があの時見放したりしなかったら、心夏さんの記憶は――
もう願っても遅いなんて、わかりきっています。
どんなに有力な人に頼ったって、お金をつぎ込んだって、戻らない過去だと知っています。
でも、いつしか貴女の記憶が戻るとしたら、私は、私は、絶対に貴女をもう一人にはさせません。
誓います。
そして、
あなたはもう一度私の元に戻ってきてくれますか?
その時には―――